天才にして天災たる悪役貴族様~自身がゲームの悪役に転生したことを知らない天才は己が才覚と努力でゲームシナリオを無視して無双する~
リヒト
第一章
プロローグ
ジメジメとした湿気に支配される不快の一言以外出てこないような地下室に足をつける僕は眉をひそめる。
「なんこれ……ここまでひどいのか」
嫌悪感。
……かつての僕ならば、16歳の僕であればそれらが噴き出し、嘔吐していたかもしれない。
「どうしようかな」
だが。
3歳の僕は嫌悪感も不快感も怒りも何もなく……ただ現状を認識し、それに対してどうすればいいかを冷静に考えることだけ。
「お願い……ころ、して」
か細い声。
「ん?……あぁ、良いよ」
どこからか聞こえてくるその声の方へと意識を向けた僕は腕を振るい、魔法を発動させる。
風が宙を舞い、たった一つの首をころりと落とす。
「安らかに」
僕の元まで転がってきた首。
安らかな笑みを浮かべる少女の首へと手を伸ばし、瞳を閉じさせてあげる。
「さて、と……見るべきものは見たし、疑念は解消された」
僕は見る人が見れば吐き、怒りに燃えるであろう光景を前にさしたる思いも抱かない。
「ふんふんふーん」
僕は隠された地下室を後にし、その上にある屋敷の方へと帰る。
「今日の夜ご飯は何かなぁ」
嫌悪感も不快感も怒りもない。
しかし、少しばかりの正義感はある。
現状に対して否を叩きつけるだけの正義感は僕の中にしっかりとあった。
だからこそ、現状を変えるだけの策略を頭の中で張り巡らせ、すべてを終わらせる日を目指して暗躍を始めた。
■■■■■
再び閉ざされ、外界より切り離された地下室。
そこで死臭が渦巻き、沈黙が降りる。
血。死体。残骸。
そこにあるのは生きる者としての尊厳を破壊された人間たちだったもの。
すべての女性の死体が裸となって天井より吊るされ、床に転がされ、壁に貼り付けられている。
体の至るところに傷が、拷問のあとが色濃く残り、地面には臓物や眼球が平然と落ちている。
それだけではない。
平然とただ苦しみの後に殺された彼女らはまだマシな部類であった。
三つの頭を持った赤ん坊が醜悪な実験器具の中で泣き喚き、頭の無い女性が実験器具を愛おしそうに撫でている。
乳房がいくつもバケツの中に入れられ、腐り、黒ずんでいる……それをぐふぐふと笑い声をあげる男か女か子供か老人かもわからなくなった醜悪で膨れ上がった生首が口に含んでいる。
幾つもの腕が、腕だけで蠢き、互いに手を取り合い輪となりぐるぐると回り続けている。
この場に生者などいない。
唯一残されていたすべてに絶望した生者は解放された。
この場に残るは醜悪な実験の末に誕生した地獄と動く死者たちだけであった。
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