第五章 世界最強の魔法使い、ついに北の大地に立つ
第二十一話 進撃の時
俺達の準備が整ったところで、七天の二人と作戦会議に入る。話すのはもちろん、西の大陸北部の奪還についてだ。
俺の立てた作戦はこう。
まず俺達四人と七天の二人が揃って
「やろうとしていることはわかったけど、そんなに上手く行くかしら。私達が抜けた状態で、王国軍が戦線を維持しないといけないってことでしょ?」
七天の五――アザレイはあまり乗り気でない様子。ここ数日でわかっているのは、彼女がかなり慎重に物事を運ぶタイプだということ。彼女とてカイマール王国軍を過小評価している訳ではないが、敵は圧倒的物量を誇る魔王軍。短時間とは言え、その進行を阻止するとなれば、これまで以上の被害が出るのは必死。王国軍が先に崩壊してしまえば、この作戦は成り立たない。彼女はそれを指摘しているのだ。
「俺はいいと思うぜ? どの道このままじゃジリ貧だ。勝負を仕掛けるなら、余力があるうちがいい」
一方の七天の三――ライゼンは
「今、上の二人のこと考えてただろ?」
ライゼンに見事に言い当てられてしまった。そんなに顔に出ていたのだろうか。
「あいつ等は人間辞めちまってる連中だからな。推し量ろう何て考えても無駄だぜ?」
「そう言われるとますます気になるんだけど」
「ここにいない奴の話しはいいんだよ。そんなことより、何か他に考えがあるんだろ?」
どうやら俺がまだ話していないことに関しても、何となく察している様子だ。そういうことならば、さっさと話してしまった方がいいだろう。
「これはあまり他言しないで欲しいんだけど」
そう前置きしてから、俺はラキュルの能力――封印術についての説明をした。以前ラキュルがロンタールに仕掛けたように、封印術を何箇所か設置し、遠隔操作で魔王軍の力を削ごうという計画である。
「何だよ、その訳わからん力は。滅茶苦茶にも程があるだろ」
「……でも、敵だけじゃなくて味方の能力も制限しちゃうんじゃ、使いどころは難しいわね」
「だから、俺達が魔王軍に突っ込んだ時に途中途中に設置しておくんだ。カイマール王国軍には事前に遠距離物理攻撃の用意をしてもらう。これならカイマール王国軍はそれほど影響を受けずに戦えるだろ?」
「んで? 俺達が反転するタイミングで術を解除して、王国軍にも攻め上がって来てもらう訳か」
「そう言うこと」
「なるほどな~」と言ってライゼンは腕を組んだ。きっと頭の中で勝率を計算しているのだろう。年上である分、俺よりも戦闘経験豊富な彼のことである。この作戦の有用性はわかってもらえるはずだ。
「ま、いいんじゃね~の? 要するに俺らがどれだけ早く北端を制圧出来るかって話だろ?」
「そんな適当でいい訳? 失敗したら前線が崩壊して、もっと南に攻め込まれることになるのよ?」
「そうならないように急ぐんだろ? わかりやすくていいじゃね~か」
アザレイは不安を抱えているようだが、ライゼンの方はすっかりやる気になっている。
「カイマール王国軍の連中が攻を焦らなければ、被害は少なくて済むはずだ。魔物は人間以上に普段の行動から魔力に頼ってるから、封印術での弱体化は大きい。通常の弓程度でも仕留められると思う。投石器なんかがあればますますいいな」
「……魔力云々の話ならあなたの方が詳しいだろうし、そこまで言うなら乗ってあげるけど」
完全に不安を拭うまでは行かないようだが、それでもアザレイは首を縦に振ってくれた。これはいよいよ被害を少ないまま作戦を成功させる必要がある。
「という訳で作戦は以上。後は王国軍に概要を伝えて、協力してもらうよう話を取り付ければ準備は完了だ」
「封印術の話はどうする?」
「そうね。こんな話、不用意には広められないし」
もちろん、カイマール王国軍には封印術について伝えるつもりはない。あくまで俺達が北端を制圧するまで守りに徹して欲しいと伝えるつもりだ。アザレイには悪いが、この作戦に応じてくれない人間の命までは保障出来ない。封印術の効果がある領域に踏み込めば、身体強化の
七天の二人には封印術に関すること以外の作戦を伝えると言って、納得してもらった。多少の嘘や隠し事は人間関係を円滑に構築するための基本だ。この二人を信用していない訳ではないが、全てを包み隠さず話すほど信頼してもいない。俺達と彼等は目的が一緒だから道を同じくしているだけで、それが終われば赤の他人。お互いに深く踏み込むような間柄ではないのだ。
「それじゃあ、俺は作戦を王国軍に伝えに行くから、他の準備の方は任せた」
「ああ、いいぜ。請け負った」
「準備って言っても、物を集めるような感じでもないし。明日に備えてゆっくり休むくらいのものだけどね」
俺はみんなから離れ、一人王国軍の野営地へと足を向ける。向かう先は司令官の詰め所。まだ顔を合わせたことはないものの、戦場で何度も神代魔法を見せているし、俺が元勇者パーティーの一員だと言えば、そんなに苦労せずに面会出来るだろう。
とりあえず、手近なテントにいる連中に声をかけ、司令官の詰め所の場所を聞き出し、難なく詰め所へと到着。その後も勇者パーティーの威光を存分に使って司令官と対面し、こちらの作戦を伝える。この戦場を預かっている王国軍の司令官はカイマール王国内でも名の知れた将軍らしいが、それだけの地位にいるだけあって俺のこともすぐに本物だと見抜き、素直に話を聞き入れてくれた。
そして迎えた翌日。作戦は決行される。完全武装した俺達が前に出ると同時に、大盾を構えた兵士達が後方の守りを固めた。その後方には
先頭を七天の二人に任せ、中央にスフレとラキュル、ノルと続き、しんがりが俺。縦長の隊形で魔王軍に鋭く切り込み、前へ前へと進んで行く。七天の二人が前方の魔物をまとめて吹き飛ばしてくるので、思っていたよりも進みやすい。途中で何度か立ち止まっては、ラキュルに封印紋を地面に刻んでもらう。その間の守りは七天の二人と俺が担当。パーティーに近い魔物は七天の二人が、遠方から迫り来る魔物は俺の魔法が担当し、それぞれを撃破。封印紋が完成したらまた進撃。と言う形で、北端を目指す。早朝から作戦を開始して、日の光が天頂に届きそうになった頃、ようやく北の大陸へと続く海が見え始めた。
「もう少しで北端だ! 気を抜くなよ!」
先陣を切っているライゼンが声を上げる。それに続くアザレイもますます勢いに乗って目の前にいる魔物を殲滅して行った。
七天の二人が使っているのは、武技と呼ばれる戦闘技法だ。魔力を体の隅々や武器に行き渡らせ、攻撃の瞬間にそれらを放出する。そうすることで魔法にも似た多くの事象が引き出せるのだ。
例えば、ライゼンが多用するメテオインパクトという武技。これは魔力を拳に込めて、直線状に放出するという単純な技なのだが、練りに練られた魔力の強度は、この世界で最も硬度の高い鉱石――アダマンタイトすら易々と砕くと言われている。ライゼンは保有魔力が多いので、これを連発しても疲弊することはない。持ち技は少ないが、それでも充分な戦闘力を発揮するタイプだ。
一方のアザレイは多様な武技を連続して使うことで戦うタイプ。一つ一つの技の威力ではライゼンに劣るものの、その圧倒的手数に物を言わせ、魔物達を
七天の二人が開けた魔王軍の穴に侵入し、そこに封印紋を刻み込むラキュル。一つの封印紋を完成させるのにかかる時間は三分ほど。その間は移動出来ないので、ひたすらに向かい来る魔物を倒すだけだ。
「封印紋、完成しました!」
「よし、次行くぞ!」
七天の二人に声をかけ、再び進撃を開始。だいぶ海岸に近づいたからか、海を渡る大型の魔物の背から、次々と魔物が上陸してくるのが見えたので、俺はそこに向けて真っ先に魔法を放った。氷系統の古代魔法で相手の動きを封じ、雷系統の神代魔法で根こそぎ駆逐する。上陸してくる魔物が減ったことで動きやすくなったのか、七天の二人の動きが更に加速した。岸壁になっている海岸沿い魔物達をあっという間に殲滅し、一帯を確保してしまう。
「敵の増援は!?」
周囲を警戒しながらライゼンが言った。俺はノルに指示を出し、海の向こうを遠視してもらう。
「波のせいでちょっと見えにくいけど、魔物と思われる陰が三つほど。たぶんさっきディルが倒したのと同じ奴だ」
「そう言うことなら。スフレ、視覚共有頼む」
スフレの支援魔法でノルの視界を俺の視界に共有してもらい、俺は位置を測る。あまり海底を削るような魔法を使ってしまうと、潮の流れにどういう影響を与えるかわからない。場合によっては、北の大陸に渡る
そうして狙いを定めた俺は、風系統の神代魔法を同時に三箇所に展開し、海上の魔物を一掃した。これでしばらくは敵の増援も来ないだろう。この機を逃す手はない。俺は火系統の魔法を打ち上げ、防衛線を張っている王国軍に合図を送る。いよいよ作戦の最終段階。西の大陸北部奪還に向けた、最後の戦いの始まりだ。
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