第17話 一人ぼっち



 リディアの世界は再び暗くなった。むしろ、以前より暗く、真っ暗闇になった。

 グレンの姿が見えなかったときより、ずっと。


 グレンは目覚めなかった。

 身体にはやはり大きな怪我はなく、かといって病気でもなく、どうして意識を失い戻らないのか分からないと王宮つきの医者も困り果てて首を傾げるのみだった。

 国内で名高い他の医者を呼び寄せても、同じ言葉が繰り返される。原因不明だ、と。


 グレンは王宮の一室のベッドに横たわり、目を閉じた顔は端から見るとただ眠っているだけに見えた。

 けれど起きない。声かけようと薬を処方されても、起きない。

 ベッドの側に引っ張ってきた椅子に座っているリディアは、ぼろぼろと涙を流し頬を濡らし続けていた。

 その涙を拭ってくれる温かな存在はまた遠ざかってしまった。

 こんなにも近くにいて、触れられるのに。


 今日もまた、グレンの穏やかな寝顔を見る。

 側にいないのと、側にいてもこんなことになっているのとどちらがましなのだろう。どうしようもないことを何度も考えた。

 その度にリディアの胸は苦しくて、和らげる方法もなく苦しさが増すばかりだった。


 妖精公爵が言っていたのはこのことだったのだ。最後の最後まで「子」である彼のことを気にかけていた。かの妖精は遠い地で起こることと、それにより流れる血に眠った。

 妖精は地に深く結びつく。良くない気配を感じとり先に眠った。


 それなのに、戦地に赴いていたグレンは直接その空気にさらされた。

 血は妖精には良くないものだと聞いた日、小さな妖精が消えてしまったことを思い出した。

 グレンは妖精だ。人間でもあるが、妖精なのだ。不思議な力を見せてくれた彼はそうであると、分かっていたのに。

 姿が再び見えただけで嬉しくて舞い上がっていた。


 両手を膝の上で強く固く握り合わせたリディアの琥珀色の瞳から、一筋二筋、雫が伝い続けた。


 グレン・ハウザーは眠ってしまい、いくら時経とうとリディアの呼び掛けに応じることは愚か、ぴくりとも動くことはなかった。


 リディアは何度も何度も、グレンがいない年を重ねた。




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