第4話 妖精姫の帰還
◇◇◇
しばらくすると、約束通りラルスが大勢の人たちと一緒に戻ってきた。ラルスと同じように、頭に可愛いケモ耳が付いた人、下半身が蛇の人、身体中がゴツゴツした岩で覆われた人。その種類も様々だ。
だけどみことは、一部の人達の姿に目が釘付けになった。とても小さいけれど、みことと同じように背中に二対の羽根を持つ人達。その人達は、みことを見るなり嬉しそうにパタパタと飛んできた。
「姫様!お帰りをお待ちしてました!」
「おかえりなさい!!!」
「姫様?」
そのとき、一人の人がスッと前に出た。金の髪に金の瞳を持つ美しい少年。肩には小さな金のドラゴン。
(私と、一緒……)
「初めましてみこと。僕の名前はレクト。君をずっと待っていたよ」
レクトが差し出した手におずおずとみことが触れる。その瞬間、森全体が眩い黄金の光に満ち溢れ、一斉に花が咲き乱れた。わっと歓声が上がる。
「「「妖精姫の帰還だ!」」」
◇◇◇
「僕と君は、妖精族っていう珍しい種族なんだ。千年に一度、ここ、天空にある世界樹の森で生まれて森の守護者となる。小さいのは僕たちが使役するこの森の妖精たち。そして、妖精族が大人になったときに現れるのが、僕たちの守護精霊であるゴールデンドラゴンだよ」
レクトの話は驚くことばかりだった。
「私、小さい頃はおばあちゃんと二人で暮らしてたの。おばあちゃんが亡くなってからは、一人で暮らしてたんだけど、武器を持った人達が森にやってきて……」
みこともこれまでに起こったことをレクトに話した。レクトはみことの話を黙って聞いていたが、聞き終わると溜め息を付く。
「本来妖精族は世界樹の森にしか生まれないんだけど、稀に世界樹の種が下界の森に芽吹いて、そこに妖精族が生まれてしまうことがあるんだ。君のようにね。武器を持った人達は、世界樹の実を採りにきたんだろう。とてもいい薬になるから。君のおばあさまは、多分エルフじゃないかな?おばあさまの耳、こんな風に尖ってなかった?」
レクトの言葉にみことはこくこくと頷く。おばあちゃんはとても美しくて綺麗な人だった。長く美しい緑の髪をしていて、耳はちょっぴり尖っていた。
「エルフは下界に住む森の守護者なんだ」
「そうだったんだ……それで、森に生まれた私を拾って育ててくれたんだね」
優しいおばあちゃんを思い出して涙ぐむみこと。
「みことはおばあさまのことが大好きだったんだね」
「うん。私に生きていくための色々なことを教えてくれたの。こんなふうに、植物を育てる歌も……」
みことが歌を口ずさむと、歌に合わせたように次々と若芽が芽生えていく。
「その歌のお陰で、この森も助かったんだよ」
レクトの言葉にみことは首を傾げる。
「妖精族の役割は森を守護すること。中でも、妖精姫と呼ばれる精霊の愛し子の歌は、森を育てるんだ。君の歌は地上の森とこの森、両方に恵みを与えてくれていたんだよ。おばあさまはきっと、そのことを知っていたんだろうね。だから君に古からエルフに伝わる、妖精族の歌を教えたんだ。本当に、素敵なおばあさまだ」
「おばあちゃん……亡くなるときずっと、一人になる私のこと、心配してたの……」
みことはポロポロと涙を流した。
「世界樹の守護者である僕が地上に降りることは許されてなくて。君のドラゴンが生まれるまで迎えに行けなくて本当にごめん。ここが君の本当の故郷だ。これからは僕と、森の仲間たちが一緒にいるよ」
レクトの言葉にみことは深く頷いた。いつの間に仲良くなったのか、ルークスもレクトのドラゴンに寄り添い、頬をすり合わせている。
「ルークスも、私も、ようやく仲間に逢えたのね」
◇◇◇
天空にそびえる世界樹の森の中。今日もみことは歌う。天上の森、地上の森。全ての森に祝福を授けるために。亡くなったおばあちゃんが教えてくれた歌を、心を込めて歌う。
そうして世界樹の森はますます栄え、地上にも変わらず豊かな森の恵みと、たくさんの命が生まれた。誰も、みことのお陰だなんて思ってはいないけれど。
(それでいいの。だっておばあちゃんが守り続けてきた地上の森も、私の大切な故郷だもの)
みことの側にはいつだって寄り添ってくれるレクトと二匹の可愛いドラゴン。ラルスを始めとする楽しい森の仲間たち。みことはもう一人じゃない。満たされて幸せだった。
――――もし、空から金の卵が落ちてきたら……それは、あなたを迎えに来たドラゴンの卵かもしれませんね。
おしまい
妖精姫と金の竜 しましまにゃんこ @manekinekoxxx
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