第3話 天空の森

◇◇◇


 ルークスに吹き飛ばされた冒険者たちは、なんとか逃げ帰るとすぐに冒険者ギルドに向かった。そこで、森で出会った不思議な術を使う少女とドラゴンに出会ったことを、仲間の冒険者たちに声高に話して聞かせる。


「依頼された珍しい木の実を採りに行ったら、恐ろしいドラゴンに襲われて命からがら逃げてきたんだ」


「ああ。女のガキがドラゴンを操ってた。頭からすっぽりローブを被ってたが、ありゃあ森に住む魔女に違いない」


 報告を受けた冒険者ギルドは、国王に報告し、国王はすぐさま兵に命令を下した。


「貴重なる命の木の実のある森に、ドラゴンとそれを操ると言う怪しげな少女が現れた!見付け次第ただちに捕縛せよ!暴れるようなら討伐を許可する!」


 幾千万もの軍隊が列をなして、森に向かう。まずは少女を捕らえ、あわよくばドラゴンを従わせるために。しかし、森の中を隅々まで調べても、少女やドラゴンは影も形もない。その後、何度となく兵士を派遣したけれど、結局誰も、少女とドラゴンを見付けることは出来なかった。


◇◇◇


「こんな空の上に森があったなんて……」


 あの後再び大きくなったルークスは、みことを乗せて天高く飛び立った。地上がぐんぐんと遠くなり、あっという間に見えなくなる。地上から遥か遠く離れた上空。そこに拡がっていたのは、空一面に拡がる見渡す限りの森林だった。森の中心には恐ろしく巨大な木があり、みことは思わず目を見張った。


(凄く大きいけど、うちの木と同じだわっ!)


 だからだろうか。始めてくる場所なのに、不思議と懐かしい森の空気。みことは深く被ったフードをそっと外した。


 現れたのは、輝くような金髪に美しい金の瞳をした、息を飲むほど美しい少女。


「おばあちゃんが万が一人に出会っても決してローブを脱ぐなって言ってたけど……やっとその理由が分かったよ」


 みことがローブを脱ぐと、背中から透き通るように美しい二対の羽根が現れる。


「他の人間には、背中に羽根がなかった。ずっと人間だって思ってたけど、私は人間じゃなかったんだね……私は、なんなのかな。あの人達のいってたように、魔物なのかな……」


 そのとき、後ろの草むらでガサガサと音がしたかと思うと、一人の少年がひょっこり顔を出した。頭にピンと立った三角の耳。お尻からはフサフサの尻尾が嬉しそうにブンブン揺れている。


 男の子はクンクン鼻を鳴らしながらみことの前までくると、しげしげとみことの顔を見つめ、白い牙を見せてニパッと笑った。みことはハッとして、慌ててローブを被ろうとする。しかし、


「俺、天狼族のラルス!君の名前は?」


 元気よく自己紹介をされて思わず手を止めた。尻尾をブンブン振りながらキラキラした目を向けてくるラルス。みことは恐る恐る返事をする。


「……みこと。こっちがルークスよ」


「みことにルークスか。いい名前だな。いやぁ良かった。皆みことのこと、首を長くして待ってたんだぜっ」


 ラルスの言葉にみことは首を傾げた。みことは物心付いたときからおばあちゃんとあの森で二人暮らし。この森に来たのももちろん初めてだ。混乱するみことに構わず、ラルスはポンっと手を打つ。


「ああ、こうしちゃいられない!今森の皆を呼んでくるからちょっと待ってて!」


 言うが早いか、ラルスはアオーンと一声鳴き、立派な狼に姿を変えるとあっという間に森の中に消えていった。


「ルークス、どうしよう……」


 みことの胸に言い様のない不安が広がっていく。前に出会った人間と違い、ラルスに嫌な感じはしなかった。でも、えたいの知れない場所で出会った初対面の人物を、信じていいか分からない。


(でも、私の姿を見ても魔物だって言わなかった)


 みことはしばらく悩んだ末、ラルスを信じて待ってみることにした。

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