第十九話 再び墓場へ
思っていた5倍ぐらい壮絶な話だった。ダラットが優しいのにはこんな理由があったのか。
「お前は確かに墓でブレイブさんを見たんだな。」
「はい。話したのは間違いないです。」
「そうか。ちょっと待っていてくれ。」
そういうとダラットはカウンターから奥へ引っ込んでいった。
すると着替えてすぐに戻ってきた。
「よし、墓場に行こう。」
「仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、早退してきた。ブレイブさんがいなくなってから、せめてもの償いにとがむしゃらに仕事してたからな。おかげで有給は溜まってる。もちろん鍛錬も欠かしてはいないがな。」
めっちゃホワイトだな。冒険者ギルド。というかこのゲーム見た目はレトロだけどシステムかなり現代チックだよな。バイトとかしてみたい。
「それじゃあ出発しようか。」
「「はい!」」
陽太もここは元気に返事をして、墓地に向かった。
そして俺たちが墓地に着くと…
ブレイブは小屋にはいなかった。でも昨日確かにいたんだけどな。
「いなかったな。」
「すみませんでした!」
「いや、でも生きている可能性が見えただけでも僥倖だ。
あの後、ブレイブさんの遺品は落ちていたペンダントだけだったんだ。ペンダントはあの人の大切なもので、肌身離さず持っていたんだ。命と同じぐらい大切なものだとよく言っていたから、なくしたのならまた必ず取りに来るはず。しかし取りに来ないということは…ってことで捜査は打ち切られたのさ。」
「なるほど…」
「まあ、最近墓参りに来ることもなかったし、休暇だと思って楽しむか。」
本当にダラットさんいい人だよな。こういう時、嫌な顔一つせずに相手を傷つけない配慮が出来る人間になりたいなあ。俺も。
そんなわけで突っ立っているわけにもいかず手持ち無沙汰になった俺は墓場を散策していた。すると墓場の陰からひょっこりと人影が俺の前に現れた。
「よう、昨日ぶりだな。恐」
と、何事もなかったかのように軽く挨拶をするのは
赤髪にハチマキを巻いている男――――
ブレイブだった。
「えええええ?」
驚いた俺は、思わず声を上げた。いやだってこんなひょっこりと挨拶して現れるとは思わないじゃん。いやでも格好と名前が同じ別人の可能性もある。問いただしてみよう。
「ブレイブってダラットと同じパーティーに入ってたのか?」
「ああ。」
すっごいあっさり肯定されてまたしても反応に困る俺。なんか一人だけオーバーリアクションとか恥ずかしいな。とりあえずダラットに報告しよう。
「ダラットさーん!ブレイブさん居ましたよ!」
持ち前の大声でダラットに呼び掛ける。
するとダラットはすぐに来た。少し遅れて陽太もだ。
「どこだ?ブレイブさんは?」
「ここですよ?真正面。」
「どこだ?」
「いやだから正面にいるって…」
相変わらずブレイブはにこにこしていて表情を崩さない。まるでこれが当たり前のように。どういうことだ?
「「恐(介)…俺の目が確かならそこには誰もいないぞ。」」
「へ?」
その時俺は一つの可能性に思い当たる。
条件は二つ。
①ダラットと陽太にはブレイブが見えていない。
②俺の職業はネクロマンサーである。
この二つの条件から考えられる可能性はいくつかある。
①だけを見るなら、まず一つはバグだ。だが、故人がバグで現れるなんてあり得るだろうか?そもそもそんな設計はしていないはずだし、陽太から聞いたところには、このゲームは始まって以来一つのバグも確認されていないらしい。それを見つけたのだとしたら少しうれしくあるが、そんな確率はほぼ0と言っていいだろう。
もう一つは俺が錯乱したという可能性。これも低いと言えるだろう。
なぜならホラーに立ち向かう際に、最も必要となるのは何か?と問われた時に答えとなるのは「精神力」であるからだ。おれはホラーを楽しめるように、精神力を鍛えてきた。並の人間より精神力は高い。別に真暗闇に3日ぐらいなら放り込まれても平然としているし。だから錯乱するという可能性は低い。
まあ①だけならばこんな感じの可能性が考えられるのだが、②も加わると新しい可能性が浮上してくる。
即ち、ネクロマンサーという職業には霊視能力がデフォルトでついている可能性だ。
さあ、実験だ。まあ仮説が間違っていたのならなら俺が錯乱者ってことになるんだがな。でも前述した通り確率は低い。
だが職業の特殊能力を共有することなんてできるのか?
とりあえずこのゲームに詳しい陽太に聞いてみようか。
「大丈夫か?恐介?」
長考していた俺に陽太が声をかける。
「なあ、陽太。」
「なんだ?」
「職業に特殊能力がついていたりすることってあるのか?」
「ああ、大体の職業にはあるぞ。」
「それを共有する方法ってあるか?」
「ああ、無くもないが…かなり使い勝手悪いぞ。」
「教えてくれ。」
「パーティーを組んで、スキル共有をすることだ。」
「どこが使い勝手が悪いんだ?」
「ペナルティがあってな。まず、発動している間全員獲得経験値が三分の一になる。それだけじゃないぞ。共有した人数分の日数、共有した人間はそのスキルが使用不可になる。これを聞いて、まだやろうってやつは少ない。」
「でもできるんだな?」
「ああ、お前はネクロマンサーだから『霊視』だな。ってまさか?お前が変なこと言ってた理由ってそういうことか?」
「ああ、おそらく想像の通りだ。俺が錯乱しているかバグを発見したんじゃなければな。」
事態が読めていなそうなダラットに話しかける。
「とりあえずパーティーを組んでもらえませんか?」
「あ…ああ。別に構わないが、大丈夫か?」
「大丈夫です。というか組んでもらえたらすべて納得できると思いますので。」
そしてピロン♪という通知音とともに視界の端に画面が現れる。
「『よっしー』さんからパーティー申請が行われました。参加しますか?Yes/No」
もちろんYesだ。それにしてもよっしーって…
思わず笑いが漏れてしまう。陽太がジト目で睨んできたので収まったが。
「職業スキル共有。『霊視』」
俺がそう唱えると、ずっとニコニコしていたブレイブが話しかけてきた。
「感謝するよ。恐。」
「いいさ、別に。」
そんなことを話していると、泣き声が聞こえてきた。
「ブレイブさん…」
ふとダラットを見ると、目からは大量の涙が。
ブレイブは恥ずかしそうに頬をかいて、何でもないように返す。
「よお、ダラット。久しぶり。」
「霊視で見えているってことは、やっぱり俺のせいで…」
「気に病むことはないさ。人を守れて死ねるってのはいい人生だ。」
ダラットは男泣きをしながら、ブレイブに近寄っていった。
「でもこうしてもう一度話せるってだけでうれしいです。」
「ああ、俺もだ。」
「変わらないなあ。ブレイブさんは…」
「お前も変わんないな。その
俺が何か不吉なものを感じた瞬間、こちらに背を向けるダラットからはグサッという音と共に鈍い銀色の光が。
「どう…して。ブレイブさん」
血の逆流するガラガラという音をのどから鳴らしながら、ダラットは問う。
それに対するブレイブの返答は、刃をさらに押し込むことだった。
ドサッと崩れ落ちたダラットの顔は人形のように蒼白で。
俺は一拍遅れて状況を理解して、どうすればいいのか何も考えられず。そんな口から紡ぎだされたのは自分でも驚くほどに冷静な声だった。
「おいブレイブ。何やってんだお前?」
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どうもこんにちは(或いはこんばんは)。本屋行って赤本見て優越感に浸るとかいう謎の行動をしてました。作者です。
思いっきりシリアスな展開にしてしまいました。後悔はしていません。(確信犯)
あと数話で一章終わりですね。今後の予定ですが、一章を投稿し終わったら、二週間ぐらい投稿不可能な状況(テスト週間)になりますが、終わったら帰ってきます。
評価やフォロー、感想、誤字脱字のご指摘などがあると大変ありがたいです。
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