番外編 千五百円は大金。


恐介にゲームを勧めるとき、なぜ陽太はあそこまでしつこく食い下がったのか?

それは昨日の夕方、鞍馬家での自宅での出来事によるものである。





■■■



陽太はその日、いつものように恐介と遊ぶために鞍馬家を訪れた。


「いつ見てもでけぇ家だなあ」


何度も遊びに来ている彼がそういうのも無理はない。

目の前にはまるで旅館のような荘厳な雰囲気の漂う日本家屋があったのだ。


「さて、お邪魔しますっと。」


彼は玄関チャイムを押した。

「どうも―」


そうすると、中から女性が出てきた。

まるで日本人形のようなきれいな黒髪の女性だ。

ちなみにこれは鞍馬家の遺伝である。


「どうぞ~ 別にチャイムなんか押さなくていいっていつもいってるでしょ~」

「すみません優子さん。わかっていても押しちゃうんですよね。なんとなく許可なしに入ったらまずいような感じで…」


名は体を表すとはよく言ったもので、とてもやさしそうな雰囲気をまとう優子と呼ばれた女性は言う。


「ぜんぜん気にしなくていいのにね~ちょっとわかるけど。

とりあえず、恐介はまた部屋の中でよくわかんないことしてるから気にしないで。

今呼んでくるわ。」


そうして小走りで恐介の部屋に向かってゆく。


「恐介ー!陽太君来たわよー」


あの体からよくあれだけの声が出せるなと思うほどの、家の外にいても聞こえる大声で呼びかける。


「ちょっと待って!今行くから!それと静かにして!鼓膜敗れる!」


遺伝なのかこれまた大声で叫び返す恐介。

ほどなくして彼は玄関まで下りてきた。

部屋着なのか彼の私服のセンスは少々残念なことがうかがえる髑髏のTシャツを着ている。彼は黙っていればイケメンで、頭もいいのだが、ホラー好きが高じて一日の会話の中に必ず一度は怖い話を入れなければ気が済まないという性格である。そして私服がとても残念。

端的に言おう―――

彼、鞍馬恐介。「ざんねんなイケメン」である。


閑話休題。《それは置いておこう》




その日もひとしきりカードゲームと怖い話で遊んだ陽太は、時計を見て驚いた。

なんとすでに18時。

早く帰らないと怒られてしまう。

そして荷物をまとめて帰ろうとすると優子がケーキを持ってきた。


「疲れたでしょ、ケーキでも食べて休んだら?」

「いや、もうかえりまs」

「是非、たべていって。」

「恐介、ちょっとフォーク持ってきて。棚の奥のほうにあるやつ。」

「えー、取るのめんどいんだけど。」

「いいから取ってきて。」

「はい、ゆっくりとってきます。」


母は強しというべきか。誤用な気がするが。

動物的な直感で何か重要な話があることを陽太と恐介は察した。


「それで、話とは何でしょうか?」


単刀直入。

交渉においては悪手だが、友人の母親ならばいいだろうと判断した陽太はそう会話を切り出す。


「いや~。話が速くて助かるわ~じゃあこっちも本題に移るわね。

あの子にホラー以外のゲームを勧めてもらえない?」


優子が提案したのはそんな突拍子もないことだった。


「何でですか?」

「私はね。あの子に別のものも知ってもらいたいの。

ホラーも確かにいいわよ。

でも、人間一側面だけに頼って生きていちゃダメなの。

あの子の中にはホラーばっかり。でも、将来そのかかわりの人ばっかりかっていうとそうじゃない。

様々なものに触れておくことで、社会に出たときの武器、引き出しを広げられるように。そう思っているんだけど。

母親の私が言ったところで強制になっちゃうでしょ。

強制されてやるものは、たとえゲームであっても楽しくない。

自分のやったことないジャンルならなおさらよ。

だからその時に必要になるのは仲間だと思うの。

だからお願い、あの子と一緒にほかのゲームやっていてくれない?」


「はい、恐介にはいつもお世話になっていますし、喜んで。」

「ありがとう。」

「そういえば、報酬も払うわよ。まず、誘ってくれたら200円。

見事あの子がプレイしたら1300円。合計1500円よ。」

「喜んで‼」


現金な奴である。

それも仕方がない。彼は、遊びに行くときぐらいにしかお小遣いをもらえないのだから。自由な1500円とは、彼に降ってわいた幸運のようなものである。


恐介に別の視野を持ってもらいたい。そして1500円が欲しい。その思いから陽太は恐介をこれほど強引に誘っていたのである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――三話目にして番外編です!

書いているうちに優子さんに愛着がわいてくる…

1500円は大金である。(異論は結構認める。)

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