第7話 【悲報】幼馴染にバレた
「いや、別に懸賞金がかけられてたってことを知ってなにかしようとは思ってないんだよ? ただ今日の朝、一緒に登校しなかった理由がそのせいだったのかなぁ〜って。……本当に、考えてることはこれだけだからね」
莉里は饒舌に説明してきた。手がわしゃわしゃと動いていて忙しないんだが。
俺が莉里に懸賞金がかけられていたことを知られたくなかったのは、この意味不明な反応をされるせいだ。
目を逸らして、挙動不審なことをしてくる。
いつもの調子が崩れて、完全に受け身になるのだ。
まあ、受け身になるのは今の俺にとって都合のいいことなんだけど、なんか気持ち悪くて嫌。
「莉里らしくない」と言うべきか。
いつもからかい合ってる幼馴染の急変ぶりについていけないわ。
「莉里が言った通り俺が今日の朝一緒に登校しなかったのは、懸賞金というか手配書のことがバレたくなかったからだよ」
俺がそう言うと、莉里はらしくもなくダンッ! と勢いよく机を叩いて、ムッと睨んできた。
怒り。普段見せることのない感情がむき出しになっている。
突然のことで怖くなり、反射的に俺の体が莉里から離れた。
言葉が出てこない。
「ひどい」
莉里はぷいっと顔を横に振ってきた。
「ひどい」
なんで俺はそんなことを言われないといけないんだろう?
もし、莉里が同じ立場になったら同じことをしてるはず。だって、バレたら嫌だから。
「私に相談してくれればよかったじゃん」
「っ」
そうだ。たしかにそうだ。
なんで俺はバレたら変な反応をされるのが嫌なんて思ってたんだろう。
これまでずっと一緒に過ごしてきた幼馴染。その幼馴染に頼らないで、俺は一体誰に頼ればいいんだ。
あのときは追い込まれていて気付いていなかったけど、俺にはちゃんと味方をしてくれる人がいる。
莉里は俺が頼ってくれなかった事実を受け、悲しんでいるんだ。
不機嫌そうな顔、というより悲しそうな顔だ。
「……ごめん。今莉里に言われて相談すればよかったって気付いた」
「分かってくれればいいんだけどさ。夜一って、今回のことみたいにいろんなことを背負おうとしちゃうじゃん? 「俺の問題だからぁ〜」って。それをやめてほしいな。一人で背負おうとせずにね? 私はいつでも、どんなときでも夜一の味方なんだから」
まるでお母さんのような、母性あふれる笑顔を向けてきた。
莉里はからかってくるけど、俺のことをちゃんと心配してくれて味方もしてくれる。
幼馴染で長い付き合いだけど、未だ不思議な人だ。
多分今の「いつでもどんなときでも味方」と言う言葉に俺がどれだけ救われたのか、さすがの莉里も気付くまい。
感謝の気持ちを前に出すと、絶対からかわれる。
なのであまり前に出さず、最大限に。
「まあ、莉里がそういうのなら甘んじて今度からはちゃんと相談しようかな」
「む。もぉーツンデレなんだからぁ〜」
「いやツンデレじゃないけど」
「ふふふ。そうやって隠しても、夜一が私に感謝してるのはまるわかりなんだぞっ!」
幼馴染の前では気持ちを隠すなんて不可能らしい。
「救ってくれてありがと」
「きゃー! ツンデレのデレの部分が出たぁー!」
さっきまで真面目な空気で、真面目なことを話してたのにもうこの有様だ。
まあでも、莉里がおちゃらけた空気にしてくれたおかげでしんみりとした空気がなくなったからこれもこれでいいか。
「俺はどっちかというと莉里のほうがツンデレだと思うんだけど」
「え? 例えばどんなところ?」
「普段は俺のことをからかってるのに、なにかあったら誰よりも早く駆けつけたり、俺のことを考えてくれたりしてくれてるところ」
「……そんなことした覚えないんだけど」
「うぉおおお! ツンデレのデレの部分が出たぁー!」
「その掛け声、結構うざいんだね」
「さっき言われた俺の気持ちがわかったかな?」
「……わかんない」
全く。莉里は自分がからかわれそうになったら、身を引く才能だけはあるな。
この感じだと、莉里はツンデレというよりデレデレだな、と思っているのは決して口に出しちゃいけないな。
どんなに仲が良い友達ができても、どんなに気が合う友達ができても、莉里はいつも俺のところに戻ってくる。
なので何も言わなくても戻ってくるんだろうと思っているのは、莉里に甘えているのだろうか?
考える必要もない、か。
「あっ、夜一。一緒に帰ろうと思ってたんだけど、ちょっと無理になるかも」
「なにかあったのか?」
「別になにかってわけじゃないけど、私の友達である美優ちゃんの歓迎会をカラオケでするみたいな話がグループラインでされてるんだよ」
グループライン通知422。
美優がからんでいるのならどんな話をしてるのか確認しようと思ったけど、422の数字を見てためらった。ここまで来たら最長未読の数字を更新したいな的な、どうでもいい理由で。ま、こんな数字すぐたまるか。
「その歓迎会ってさ。どんなことするの?」
「んー。さあ? 分かんないけど、場所がカラオケだから歌でも歌うのかな。……って、もしかして興味あるの?」
「ちょっとは」
「ひぇ〜。体育祭、文化祭という2つの行事を堂々と仮病で休んだ夜一が人の集まる場所に興味が湧くなんて!? もしかしてここは夢の中!?」
莉里は分かりきってる顔をしながらノリノリで頬をつねってる。
「そんな人が集まるのか?」
「うーん。ぱっと見はクラスの半分以上の人と、他クラスの人が数十人来るらしいね」
多いなおい。でも、有名な現役JK社長ともあろう人と一緒にカラオケに行ける機会があるのなら、そりゃ喜んでいくか。
正直、人数を聞いてすぐ家に帰りたくなった。
でも、もしかしたら、美優が俺のいないところで痴漢のことを周りに言いふらしてしまうかもしれない。そう考えると、家に帰るなどと考えている場合ではないんだよね。
「俺も行く」
「……まじ?」
「ああ。まじのまじで行く。その代わり、莉里も来いよ」
「うん。もちろん。多分だけど一緒に行っても、あんまり喋れないと思うな」
「それってどういう……」
大人数でカラオケに行くので、莉里と部屋がバラバラになることなんて必然だった。
「よっしゃ! 盛り上がっていこうぜぇえええ!」
「「いぇえええい!」」
知らない人しかいない陽キャムード全開の部屋で、俺はぽつんと端っこにある椅子に座ることになってしまった。
くそっ!
美優の言動を監視するために人がたくさんいる場所に来たというのに、なんで同じ部屋じゃないんだよ!
これじゃあ、来た意味ないじゃないか。
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