第6話 バレていました

 これを見ている人なら気付いていると思うが、俺は学校でも陰に潜み陰に生きる忍者のような陰キャだ。

 定期テストでは中の上。頭は悪くなく、良くもない……ザ・平均的な男。

 学校で話すのも、幼馴染の莉里だけ。ちなみに中学時代も全く同じで、知り合いが一人もできなかった。高校デビューをする勇気があれば、今頃誰とでも仲良くなれる莉里のようなキラキラした人になれたかもしれない、と妄想してみたり……。


 っと、高校でも陰キャなのは席のせいもある。俺の席は窓際の一番端っこ。そして、隣が空席だ。

 普通の人なら喜ばしいことなのかもしれないが、隣に人がいないと喋る人がいないので俺からしたら最悪。

 ……かと言って、隣に人がいれば陰キャにならなかったとは断言できないのが辛い現実なんだよなぁ〜。


「えーていうわけで、全校朝会で自己紹介した竹橋美優さんが私達の一年二組に転入することになりました。お前ら。竹橋さんに優しくしろよ」

「俺たちのクラスなのか!!」

「やったー!」


「まじかよ」


 クラスの人たちは喜んでいるが、俺は全く喜べない。一番最悪の状況だ。

 まさか、俺のことを追い詰めるために同じクラスになったとかそんなわけないよね?


「ちなみに竹橋さんがこのクラスになったのは本人たっての希望だ。生徒の意見を聞き入れるのは異例中の異例だが、それほど竹橋さんは君たちと同じクラスになりたかったらしいぞ」


 どうやら俺の考えはピンポイントで当たったらしい。こんなことが当たるのなら、代わりにソシャゲのガチャも当たって欲しいわ。


「ちょっと、先生。そんなこと言われると恥ずかしいじゃないですか……」


 美優は頬を赤らめ、顔を手で隠した。

 『かわいい女の子』

 もし俺が美優に狙われていなければ、そう思っていただろう。だが、今の俺には、目的を果たすために周りから良く見られようとしている悪どい女の子に見える。まあ、かわいいのは合ってるけど。


「先生! 竹橋さんの席は……? 席はどこなんですか!?」

「あーそうだな。夜一の隣でいいだろ。ちょうど空席だしな」


「っ!」


 たしかにちょうど空席だけどさ!

 そんなふうに席を決められたら、クラスの人たちが冷え冷えになっちゃうじゃん。


「…………そうですか」


 はい。変にクラスで浮いちゃいました。


「今日からよろしくね。夜一くん」

「あ、ああ。こちらこそ」


 美優が澄ました顔で隣りに座ってきた。

 距離感が、初対面のときに言っていた「まともな友人」のそれだ。

 ただ喋りかけてきただけで勘違いかもしれない。

 でも、なんて言うんだろう……? 莉里と喋っているときに感じるような、『心の距離』が近く感じる。


 俺は莉里のことを除いて、他の人と心の距離が近く感じるのは嫌いだ。陽キャに絡まれたときみたいに感じて、気分が悪くなる。が、不思議と美優との心の距離が近くなってもなんとも思わない。

 逆に少し心が落ち着く。

 莉里と喋っていて感じることのない気持ちだ。……痴漢冤罪で捕まえられそうになっているのに、落ち着くってなんだそれ。最悪の状況が続いたせいで俺ってば、おかしくなっちゃったのか?


「ねえねえ夜一くん」


 先生が話をしている中、美優が小声で話しかけてきた。


「……なに?」

「全校朝会で言った私の探し人っていうのは、夜一くんのことなんだよね」


 美優は「ふふふっ」と微笑みながら、俺の顔を伺ってきた。


 この言葉はやっぱり美優に俺のことがバレていたってことか!

 初対面で名前を呼ばれたときから、なんかおかしいとは思ってたけど……なんでこのタイミングでその告白をしたんだ?

 ここは話の主導権を握らないと、足元がすくわれそうだ。


「全く。美優がいきなり話しかけてきたと思ったら、そんなことか。ビックリさせないでくれよ」

「? とぼけたって、夜一くんがその人だってことはわかってるんだよ? 防犯カメラの顔と、同一人物なんだもん」

「ははは。冗談がうまいね」

「冗談じゃないんだけど」


 だめだ。なんかいけると思って会話の主導権を奪おうとしたけど、陰キャの俺がそんなことできるはずもなかった。

 変に突っかかったせいで、まるで何かを隠してる人みたいになっちゃったよ。

 いや、何かを隠してる人で間違いないんだけど。


「そっか。でも、認めたくないのならそこまで追及するつもりはないよ。私はただ、探し人が本人なのか確認したかっただけだし。……急に変なこと言ってごめんね?」

「あ、うん。全然気にしてないよ」


 思ったより、あっさり手を引いてきた。


 追及するつもりがなくて、探し人が本人なのか確認したかっただけ。

 ……美優は俺のことを捕まえようとしているに違いない。

 でも、なんで俺のことを捕まえる絶好のチャンスを無駄にしてるんだろう?

 現役JK社長である美優のことだ。

 どうせ、映画とかで出てくる天才キャラみたいな感じでとんでもない戦略を練って、その通りに駒(自分)を動かしているんだろうな。

 うん。俺はその上を超えてやる!

 でも、どうやって?


「ふふふんっふ、ふ、ふふふんっ」


 美優は俺に目もくれず、鼻歌を歌いながら先生の話を聞いている。


 ……こんな呑気な人がとんでもない戦略を練ってるなんて思えない。

 もしかしたら、今までのが全部俺の妄想で美優は本当にただお礼したいだけなんじゃないか?

 うぐぐ。過去の発言を振り返ってみて、その線が消えない現実から目を逸らせない。


 俺はこれから一体どうすればいいんだろう?



  ■■



 キーンコーンカーンコーン



  ■■



 そんなことを考えていると、一日が終わっていた。

 夕暮れ。隣りに座っていた美優は、部活動見学をしに、一日で仲良くなったクラスの人たちと校内を周っている。


「はあ」


 全く。美優は俺のことをどうしたいのやら。


「夜一。ため息なんて吐いてなにかあったの?」


 リュックを背負った莉里が正面に来た。

 帰るけど、俺のことを待ってくれていたのだろうか?

 ……いや、このむずむずしている顔は違う。

 なにか言いたいんだ。


「莉里の方こそ、なにかあったんじゃないの?」

「さすが私の幼馴染。何も言ってないのに、分かっちゃうんだ」

「ああ。幼稚園から同じなんだから舐めるなよ?」


 俺は空気を和ませるため、キリッと決め顔をして言ったが莉里は気付いてくれなかった。

 いつも人の目ばかり見ている莉里がここまで目を逸らすなんて珍しい。それくらいなにか言いたいなんて一体……ん? 俺に言いたいこと?


 いや、そんなまさか。


「夜一ってさ、懸賞金かけられてたよね?」


 まさかなんだよねぇ〜。



――――――

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