第5話 波乱の全校朝会
どうやら俺は美優に外堀を埋められてしまったらしい。もう逃げることはできない。
そもそも、二人で登校したのが間違いだったんだ。
そんなことを考えている俺の前で人気のない廊下を歩いているのは、美優と莉里。
二人は会って間もないにも関わらず、下駄箱からこの廊下に至るまでで、まるで親友のような距離感になってしまった。
「でさでさ。夜一ったら美優ちゃんのこと知らなかったんだよ? やばくない?」
「私なんてまだまだ知らない人のほうが多いから、そこまでやばいことじゃないと思うけどなぁ〜」
「そうかな? 私は現役JK社長! って話題になる前から知ってたんだけどな……」
「えっ!? 莉里ちゃんってかなり古参じゃん!」
「古参……。いい響き!」
でも、俺は一つ分からないことがある。
それは、美優が一向に俺のことを捕まえようとしてこないことだ。秘書の体を触って痴漢した男がすぐ後ろにいるというのに、呑気に莉里と喋っている。
おそらく手配書を作ったのは美優だ。なので、俺の顔を知っているはず。この場合、気付いていないフリをしてる……という説が一番濃厚だ。
だが、そんなことを思っても莉里がいるのでなにも質問できない。
うじうじしていたせいで時間は過ぎていき、美優は転入生なので職員室へ。
俺は教室に荷物を置いて、全校朝会の場所である体育館に移動した。そこまでの道のりで莉理が俺に手配書のことを聞いてこなかったのが唯一の救いだ。
俺の手配書のこと実際は誰も知らないんじゃないのか? と、その時は思ったいたが、その考えは体育館に到着して覆った。
「なあ。やっぱりあの懸賞金のやつ……」
「今日ニュースでやってたあれって……」
「ドッペルゲンガーの可能性もなきにしもあらずなのでは?」
同じクラスの人たち、そして学年中から疑いの瞳を向けられている。
正直なところ、誰にも顔を覚えられていないと思っていたので、周りから疑われているのが気持ちいい。もちろんバレたら一巻の終わり。でも、ちゃんと俺のことを見てる人がいるんだなって。へへ。嬉しいな。
「みんな夜一に喋りたいことがあるのなら、コソコソ喋ってないでちゃんと面と向かって喋ればいいのに」
ぷんぷんと頬を膨らませて不機嫌そうな莉理。
こんなに話題になってクラスの人たちが認知している中、莉里はまだ気付いてない様子。
俺にとっちゃ嬉しいことだが、この前言っていた「原始人」という言葉がブーメランで帰ってきている気がする。まあ、知らないのならそんなことどうでもいっか。
「では、全校朝会を始めます」
号令がかけられ、俺の頭は切り替わった。
俺に疑いの目を向けていた人たちも、これにはだんまり。みんな前を向いて、全校朝会に意識が移った。
全校朝会ですることは、委員会の話や校長先生の話。2つともさして重要な話ではなく、長ったらしい話が続く。そのせいで、俺含む生徒たちはぼけぇーっとだらけにだらけまくっていた。
「であるからして、君たちは本校の高校生として誇りを持ち、日々勉学に励むように」
校長先生の話が終わった。
これでようやく全校朝会から開放される。
全生徒がそう思ったが。
「次は、転入生の紹介です」
司会進行の声に体育館中が嫌な空気に包まれた。
……嘘だろ。全校朝会で紹介する転入生なんて、美優しか想像できない。こんな、全校朝会という場で一体どんなことを言うんだ?
「どうも。皆さんこんにちは竹橋美優です。……いえ。現役JK社長、と言ったほうがいいでしょうか?」
「えっ!?」
「まじかまじか!! あの有名な!?」
「きゃ〜!!」
少し前までどんよりとしていたが、体育館が人の声でアーティストのライブのように揺れた。
「ふふふ。美優は私の友だちなんだよね」
莉里は美優のことを見て、どこか誇らしげにしている。俺も手配書になんてなっていなければ、誇らしげにしていたかもしれない。
「知っている方もいるかもしれませんが、私は今日から休暇を取り青春の日々を送ろうと思います。……ちなみに、私がこの学校を選んだのには理由があります」
「理由だって!?」
「そんなうちの学校有名だったかな」
「ずばり、選んだ理由はこの学校に探し人がいるからなのです!」
周りの目が一斉に俺に向けられた……気がする。というのも、俺は怖くて下を向いているのだ。
探し人。それは俺のことで間違いないだろう。
まさかこれは、俺への最後の慈悲なんじゃないのか?
全校生徒の前で自分が痴漢をしたと自ら名乗るという犠牲を払えば、捕まえることはしないであげようという。
名乗り出るか?
いやいやいやちょっと待て。仮にここで名乗って痴漢冤罪が晴れてを許されとて、俺の高校生活は刑務所生活とそう変わらないものになるかもしれない。で、そのことをネットで拡散されたら、俺の人生は本当の意味で詰む。
ここは……一か八か、賭けてみるか。
「皆さんは知らないと思いますが、ついさっきその探し人に賭けられていた懸賞金がなくなりました」
こんなの俺のことを誘き出す罠に決まってる。
だが、どうやらその言葉は周りのことを信用させるものになったようで、俺に向けられていた目は一瞬にしてなくなった……気がする。
「まじか」
周りの人、誰も俺のこと見てないじゃん。
言葉一つでこんなことするなんて、美優ってやっぱりすごいんだな。
「では、私が伝えたかったことはこれだけなので失礼します。全校朝会という皆さんの貴重なお時間をいただきありがとうございました」
美優はそう言って、俺になにも言及することなくステージから降りた。
俺のことを捕まえたいはずなのに、美優は一体何を考えているんだろう?
この場で何もしてこなかったということは……『じっくり時間をかけて罪の自覚をさせる』つもりなのだろうか?
さすがは現役JK社長。
考えていることが、俺たち一般人より何重も上だ。
……ん?
ていうか、俺ってもしかして遠回しに脅されてるんじゃね?
どうすればいいんだぁあああ!!
どんどん逃げ場がなくなってる気がする!!
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