『ざ、すぱい』 中の21


 ぼくが知るよしもないが、その時、部屋に上がってきたのは、民宿の旦那と、昼間、洞窟を案内してくれた影山さん、それに、もう一人の謎の人物だったのである。


 『おーい。やましんさん。起きてくらさい。』


 旦那さんは、ドアを叩いたが、返事がない。


 『開けてみよう。心配だ。』


 影山さんが言った。


 『うんだな。なんか、やはり、胸騒ぎがしたべな。』


 『緊急連絡が来たくらいだから、こりゃあ、せんそうだんべ。』


 『冗談じゃないよ。なんで、いまどき、戦争なんかするだよ。』


 旦那さんは、合鍵でドアを開けたが、つまり、ぼくは、居なかったのである。


 『あちゃあー。やられたかな。さらわれたか。』


 『遅かったかなあ。』


 謎の人物は、こう言った。


 『とにかく、本部に連絡するっぺ。捕虜に取られたと、みるべきだな。』


 その人は、急いで、一階に降りていった。


 『攻撃が、早まるかも。』


 『んだ。祭司長は、核を使うのも辞さないと言っている。となり町には、核はあるべか?』


 『いや。ないと思うがなあ。非核宣言したしなあ。』


 『あんなの、ジェスチャーだべ。連邦政府には叶わないべ。』


 『そら、そうずら。国防は、連邦政府の責任だべな。しかし、各自治体には、自治軍があるからして、核を隠し持ってるとこが、絶対無いとは言いきれないが、まず、ないべな。あれは、維持できないからよ。この村は、例外ってわけずら。森が守るから。』


 『んでも、祭司長を、まともには止められない。それは、不可能だべ。』


 『うんだ。絶対的独裁者だもんな。逆らったら、命もないかも。テロしかないべな。』


 『まあ、いま、さらわれた方が、ましだったかもな。まだ、真実は知るまいべな。』


 『いやたあ。ほんと、すぱい、ならば、となり町が黙ってないべ。』


 『うんにゃ。すぱい、は、捨て置かれるもの。あの、美人の秘書官さんも、そうずらな。』


 『村長は、どうすると思う?』


 『さて、あの人がまた、謎だべなあ。』



        ✴️



 ぼくは、夜の闇のなかを、明らかに森に向かっていると判ったのだ。

           


  



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る