『ざ、すぱい』 中の20


 む、まずいな。


 足音は、複数だ。たぶん、3人。


 建物が古いお陰で、どうやっても、ぎーぎー、と泣くのである。


 警報をやってくれているわけだ。


 こういう場合は、逃げるのが常策だろう。


 しかし、その道は、窓しかない。


 ぼくは、再び窓を開けた。


 広々とした窓である。


 もちろん、サッシとかではない。


 木枠の窓だ。


 月はない。


 夜の闇が、まるごと手に入るような。


 おや、と、ぼくは困惑した。


 さっきはなかった筈の梯子が、屋上から降りているのだ。


 足音は、すでに、ドアまで来た。


 躊躇している場合ではなかろう。


 大切な鞄を背負って、あまり頑丈ではなさそうな梯子を登った。


 最後のひとのぼりが、やっかいなのは、仕方がないが、とにかく、屋上に上がった。


 すると、そこには、黒ずくめの怪人がいた。


 漫画に出てくるような、怪人である。


 顔は、これまた、西洋風な彫りの深い黒いマスクに覆われていて、中身が分からない。


 む。誰だろう。


 その人は、いささか不思議な、小型ヘリコプターみたいな物にまたがって、ふわふわ浮いている。


 音が殆どしない。そんなバカな。


 怪人は、ぼくを手招きしたのだ。


 どうすると言ったって、他に何をするのか。


 ぼくは、後ろの席に座った。


 そのヘリコプターは、ほとんど無音のまま、宿の後ろ側にある、小高い山の方向に飛んだ。


  

        🚁


 


 


 





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