『ざ、すぱい』 中の19

 その、真夜中のことである。


 民宿の2階の、『すまき』の部屋で寝ていた。

  

 2階であるから、地面から手を伸ばしても届かないし、総2階の造りなので、足場もない。


 しかし、深夜の1時過ぎのこと、誰かが部屋の窓を叩くのであった。


 ちょっと、うつらうつらしたが、直ぐに目を覚まして、窓を見たのである。


 外側の高い木の枝が、風に揺らいでいるのが、街灯に照らされて、黒く浮き上がって見える。


 すると、その中に、明らかに、人間の手と思われるものが、窓を叩いているのだ。


 いま、2階の客室に宿泊しているのは、ぼくだけの筈である。


 その手のひらは、指を折ったり開いたりしていた。


 つまり、叩くときは、ぐう、になり、一旦開いて、また、ぐうにして、叩くのであった。


 ぼくは、窓を開けた。


 しかし、誰の姿もない。


 上側と、下側を確かめたが、同様に何者の姿もなかった。


 ただ、ガラス窓に、一通の手紙が、セロテープで、張り付けてあったのだ。

 

 セロテープである。極めて現実的だ。


 封を開いてみると、差出人は、村長秘書官の、彼女であると分かった。


 名前の記載はないが、007-bより、とあることから、明らかである。


 こうした、コードネームは、特に決まりはなくて、本人が勝手に決めている。


 『残念ながら、間もなく逮捕されます。村長の意思ではないらしい。祭司長によります。森に連れてゆかれるみたい。あなたも、危ない。』


 『なんと。祭司長とな。』


 ぼくは、唖然とした。


 祭司長とは、かの、克子かつちか館長のことだろうか。


 ぼくは、明日、面会の予定となっているわけだ。


 彼女は、ぼくにも、どうやったのかは分からないが、警告を伝えてきたのだろう。


 ぼくは、すぐに、着替えをした。


 大切な荷物は、すべて、鞄のなかである。


 そうして、まさにそのとき、階段になにかの気配を感じた。


 


 


 

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