『ざ、すぱい』 中の16
『せんせい、覚えてくれてましたか?』
ぼくは、ちょっと、なれなれしく言った。
『ああ、覚えているとも。きみは、古い城跡を這いずり回っていたね。』
そうなのである。
もはや、痕跡さえはっきりしないような、出城跡を必死に探してあるいていた。
その、情報の出所は、かなり昔の『町』が編纂した『町史』と呼ばれるものである。
最近は、予算も元気もないのか、改訂されていない。
だから、ぼくが、おとなりと合わせて書いているのである。
おとなりと合わせて、というのが、大切だ。
平和の礎に少しでもなれば結構なことだ。
言っておくが、住民どおしには、特に、対立などない。
問題は、指導者にあるのは、明らかなのである。
大体、ぼくが言うのもなんであるが、となり町が、核爆弾を開発しているのではないか、と怪しんでいる町長の君臨する町である。
歴史よりは、町の防衛が気になる町長さんだ。
その、スパイをしているぼくは、手のつけられないバカに違いない。
しかし、今は、そうした世の中なのだ。
自治体の力が非常に強くなっているからだ。
お陰で、国政には、独裁者が出にくいとも言えるが、自治体に独裁者が多いのは困りものだ。
『きみの本は、読ませてもらったよ。』
『それは、ありがとうございます。』
『まあ、文章は、格調高いとは、言いがたいが、それは、時代に則したものであろう。』
『先生には、敵いませんから。』
『ははははは。まあ、そうだな。』
先生は、愉しそうに笑った。
『ときに、きみは、何しに来たのかな。』
『と、……先生、取材ですよ。今回は、特に、入れずの森に、挑戦します。』
『ほう? それはそれは。で、あす、図書館に来るのかな?』
『そうです。そうです。』
『ふうん。生半可では、引きそうにはないな。』
『はい。ぜひ、森の中心まで、行きたいです。』
『これは、これは、ほーほほほ。村長でさえ、入り口で諦めたのになあ。』
『ぼくは、村長さんではありません。』
『たしかに。町長でもないな。』
先生は、ぐりぐり。とした目で、ぼくを凝視した。
先生は、疑ってる、いや、知っている、というべきかな。
👀
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