『ざ、すぱい』 中の14


 オカルト映画ではないから、パーティーは、たいへんになごやかな雰囲気だった。


 早い話し、宿の主人が言うように、ぼくは、パーティーの口実に過ぎないというのは、大方確かな所だろう。


 しかし、ひとつだけ、やはり、気掛かりはあったのである。


 もちろん、村長が、まずはそうなのだが、果たしてどうなんだろうと思っていたが、わが工作員は、村長にお付きとしてやって来ていた。


 こうした場合の、運転手さんとしても、働いているらしい。


 しかし、彼女は、宴席には出てこなかった。


 村長は、思っていたほど、エリートタイプの、やなやつではなかった。


 ぼくのような半老人(半魚人のぱくりであります。)をも、先輩として立てようとしていたのは、よく分かった。


 『この度は、わが村の研究というわけですな。ありがたいことです。ぜひ、しっかり、紹介してやってください。残念ながら、観光資源が乏しいですが。』


 村長は、ぼくのとなりに正座して言った。


 ネクタイは、かなり、ルーズにしてある。


 ぼくは、さっそく、本題に出た。


 『それなんですが、入れずの森は、利用できないのかと、密かには思っていたのですが。』


 『おー。そうです。そうなんですよ。』


 村長は、ちょっと失礼、と言って、やっと、足を崩した。


 『まさに、それです。ぼくはね、実は、そこにかなり興味がありました。ただ、なんと言っても、よそ者という課題は、簡単には消えないですよ。ははははは。もちろん、そんなこと言う職員さんはありませんよ。みな、非常に協力的にやってくださいます。』


 村長は、麦茶を飲みながら楽しそうに言った。


 ぼくは、ちょっとは、お酒が入っている。


 『まだ、やることがあって、お酒は、遠慮しております。』


 『まだ、仕事ですか。』


 『仕事かどうかは、分からないですが、まだ、村長見習いですから。ははははははは。あ、失礼。実はですね、あの森については、可能な限り調べました。伝説も含めて。まあ、なかなか、入り込めないんですなあ。あなたは、ご存じでしょうが、あの森には、古くからの管理役がありまして、まあ、悪い言い方をすれば、一種の治外法権みたいなもので、村長なんかは、役不足みたいです。前任の村長さんにも訊きましたが、同じことをおっします。いまは、西町にお住まいですな。』


 『ああ。そうです。ぼくも、一度お会いしました。』


 『そうですか。なにか、秘密情報はないですか?』


 『いやあ。そう言われますと、無いでしょう。たぶん。』


 『そうですか。あなたは、もう、校長さんに、会われましたか。あそこに、いらっしゃいますが。』


 『いえ。まだ。やはり、村長さんが先でしょうから。』


 『恐れ入ります。あの方は、なかなか、隙がないですよ。ははは。あの方の許可がないと、森には入れません。行政の席順ではどうにもならない、掟、ですよ。この皆さんのなかにも、森の守り人が、いらっしゃいますような。しかし、校長さん以外は、分からないんです。秘密だそうです。森には、ちょっとだけ、入らせてもらいましたが、肝心の場所は、秘密みたいですな。』


 『村の所有なんだから、村長さんが、入れないのは変でしょう。』


 『いやいや。ぼくはね、今は、あの森を守る側ですから、そこは、掟を尊重するのが、村長です。はははははははは。』


 『はああ。』


 『しかし、可能な限り、あなたに協力するように、校長先生にも依頼しました。特段の要請ですな。よい情報をつかんだら、ぜひ、ぼくにも教えてください。』


 『それは、ありがとうございます。』


 村長との、初顔合わせは、そんな程度だった。


 しかし、村長が、敵側というイメージは、多少修正が必要かも知れなかった。


 さすがに、まだ、ウランの話はしていない。



 

 


 

 


 

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