『ざ、すぱい』 中の12


 夕方も近くなり、我が町ならば、レストランや多少の飲み屋街もあるのだが、ここ東村には、そうしたものは一切ない。


 最初に言ったように、コンビニもない。


 だから、この村の夜は、極めて健全で、静かである。


 ただし、例外というものは、大抵あるもので、この村の場合は、夏と春のお祭りは、なかなか賑やかである。


 しかも、特段に、オカルト的な秘密の儀式が残っていると言うわけでもない。


 もちろん、知られている限り、ではあるが。


 ぼくが持っている情報の範囲では、特に夏の大祭において、外部の人は、固く立ち入り無用、の儀式があるらしい。


 誰によって、なんのために、何が、行われているのか自体が、どうにも分からない。


 しかし、そうした宗教的儀式は、必ずしも珍しい訳ではないだろう。


 ただし、これについて語るのは、村のなかではタブーらしいから、新しい情報を得るのは、かなり難しいに違いない。だいたい、多くの人は、知りもしないようだし。


 ただ、村出身で、後に東京で社会学者になった明広毛勝教授が、酒席で、弟子の一人に口を滑らせたことがある。


 『かの、入れずの森では、どうやら夏祭りで謎の儀式があるらしいんだがね、一部の人以外は、まったく、分からないのだ。』


 という話である。


 この、弟子という人が、ぼくの恩師であった。


 もっとも、口を滑らせたからとかで、教授になにかあったわけではないようだし、我が恩師も、もう、90歳越えたが、ぴんぴんしている。


 ただ、ふたりは、民俗学者ではないし、いわば、専門外であった。


 もちろん、それを言いふらしたわけでもない。


 今回、これを調べるのは、ぼくの使命に入っては、いなかったし。


 しかし、もし、これが、町長の言う、核爆弾開発とかに絡んでいるのなら、話しは別になる。


 まあ、どちらが、より、オカルト的なのかは、なかなか分からないのだが。


 今日、見て回った範囲には、異常な放射線を検知したような場合はなかった。


 町長さんは、疑心暗鬼、に取りつかれてるんではないかしら。


         👹


 さて、まあ、初日でもあり、ぼくは、そのあとは、我が宿に、さっさと帰ったのであった。


 すると、宿のご主人がいうのである。


 『こんやは、あなたの歓迎会が、ここで、開催されます。ぜひ、ご参加ください。費用は、村の互助会もちです。村長も、ちょいとだけ、出席予定とか。ま、研究のためにもなるかと思いますから。なんせ、この小さな村では、人脈が大切ですからね。』


 確かに、そうに、違いないのだが、もしかしたら、村人側が、ぼくを確かめようとしているというべきなのかもしれない。


 

 


 

 


 

 


 


 


 


 

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