『ざ、すぱい』 中の9


 『では、こちらに。』  


 ガイドさまは、さらに奥に進んだ。


 目が慣れたので、わりに周囲は見やすくなった。


 見るからに、自然のままで、なんだか、怖い気もする。


 でも、そんなこと言っていては、『入れずの森』なんかに、潜入できるわけもなし。


 そう、ガイドさんには、思って欲しい。


 『これは、予想より、怖いですね。』


 と、びびってみせた。


 『なに、慣れですから。ほら、あそこ、地上に向かって、あながあいてますよね。』


 『た、確かに。』


 『あれが、いわゆる、噴火口です。しかし、実態は、ゆるゆると、粘性の高い溶岩が、流れ出したという程度だったようです。』


 『入れずの森も、そんなかんじですか。』


 『はい。やはり、火山らしい、大きな爆発があ

ったようではないらしいですが、なにせ、入れないからね。』


 『はあ。お空が、みえてますな。ちょっと、安心だ。』


 『はい〰️〰️〰️〰️。で、この先、ちょいと歩きますと、ここで、いきどまりです。この先は、下向きに穴が進みまして、水没しています。その先は、たぶん、冥界ですよ。はははは、いや、おしまいです。』


 『先に調査は進まないの? かな?』


 『計画はありましたよ。でも、やはり、予算がね-。実のところは、ナイショの話ですが、やはり、入れずのモリが、やっかいなんです。うっかりぶつかったら、祟りは信じなくても、村のなかでは、良く思われない。だから、だれも、関わりたくは、ないからね。神様は恐いのです。』


 『ふうん、ですね。』


 『まね。じゃ、帰りましょう。』


 『あの、なにか、変わった鉱物があるとかは、なかったんですか? 金とか銅とか。いろいろ。そうなったら、話が変わるかも。』


 『たしかにね。しかし、実際、変わった貴重品は、ここには、見当たらないんです。向こう側のトンネルには、行ってみたいが、村が許しません。こんな話しも、外部の方にはできるけど、村のなかではタブーです。』


 『はあ。ぼくが聞いた話では、森の開墾に当たったひとが、病気になったとか。やはり、祟りなんですか。それとも、なにか、秘密がある?』


 『まあね。その話は、一人歩きしてますが、きちんと調査はされてません。あなた、学者さん?』


 ぼくは、持ってきていた、かっこだけだか、サイン入り自著を差し上げた。


 『ああ。これ、図書館で 見たことあります。ありがとう。なるほど、この作者さんですか。光栄ですな。あなた、ウラン鉱石の噂は知ってますか。』


 『まあ、噂は聴きましたが、幽霊みたいな話ですね。なかなか、書きようがなかったです。』


 『いやあ、ぼくはね、入れずの森には、ウラン鉱石の塊が、まだあると思うんです。しかし、埋蔵量が少なかったなら、資源にはならない。開墾チームは、たぶん、勝手にはいったわけではないと思うんです。たぶん、当時の村長の指示があったに違いないんですが、証拠はないし、まして、うちは、かつて主流派から排除された分家なんで、なかなか、分からなくて。しかし、ウランは、欧州あたりでは、古くからガラスに混ぜたようですが、といっても、江戸時代のこの村にウランの知識も使い道も、なかったかも。はははは。森が禁足地になったのは、はっきりしませんが、江戸時代の中頃よりもさらに前らしい。もしかしたら、室町期かもしれない。開墾チームは、もう少し後なんで、ちょいと、不思議なんですがね。また、良い話があったら、教えてください。』


 『もちろん。ぼくこそ、お願いします。連絡先は、本にあります。』


 ぼくらは、帰還し始めた。


 そこに、来たのである。あれが。


 

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