『ざ、すぱい』 上の3
先の首都近郊大地震によって、この国は壊滅的な被害を受けてしまった。
もともと、首都近郊集中型だったので、危ない危ないと言われ、首都機能の移転の必要性が叫ばれてはいたが、叫ばれただけで、ほとんど、なにも変わらなかった。
本当は、だれも、変えたくなかったのかもしれない。
今まで、えいえいと築いたインフラはなんだったのかとかも、言われるからだ。
移転にかかる、手間も時間も惜しいだろう。
昔は、妖しい天変地異が理由になったが、そうも行かないし。
叫ぶこと自体が、重要だったかもしれない。
そこで、東村の村長は、賢明にも、被災した方々の積極的移住受け入れを表明していた。
なるほど、見学や体験滞在に来た人は、かなりあったらしいのだ。
そうして、みなさん、『良いところだ。くうきが旨い。お水が旨い。』と、帰りがけに、誉めちぎるのだ。
しかし、最終的に移住して来た人は、10人程度に留まっているらしい。
このようなことは、本来都会育ちの村長さんは別として、お住まいの方には申し訳ないのだが、東村には、ほんとうに、なにもないのである。
東村には、コンビニがない。
いや、スーパーマーケットもない。
ただし、村営の物産館があって、一応の生活物資は、だいたい手に入る。
レストランと呼べるものは、そちらに、紅葉の季節だけ開いている食堂があるくらいだ。
その時期は、観光客が、村の人口よりもはるかに多いくらいにやってくるのである。
村の中心部は、わが町の中心部から、車で50分くらいであるから、スーパーマーケットが、よっつもある我が町に、買い物に来る人もある。そのうちひとつは、事実上のデパートであるし。
コミュニティバスが、毎日、国民鉄道西町駅との間に、一往復ある。
料金は、村民なら、わずか、往復100ドリムである。
逆に町から町民が行こうとすると、200ドリムかかるので、ちょっと問題になっていた。
さて、それは、ともかくも、本題の問題は、その広大な土地には、実はかなりでかい、ウラン鉱石の鉱床が眠っていたことなのである。
それは、最近まで、まったく知られていなかったのだ。
むかし、全国的調査が行われたときには、なぜだか、見つからなかったらしい。
で、今でも、まだ、一般には公表されていない。非常に微妙なことだからである。
しかし、村長は、当然というか、なぜだか、早くから、どうやら知っていたらしいのである。
だから、村長になろうと計画したのではないか、とも、疑ってしまう。
国側に、なんらかの、パイプがあったことも、間違いないだろう。
村長は、これを、活用したいと考えていたのに、違いない。
それも、かなり、危ない活用をしようとしていたらしい。
そうして、いつの間にか、すでに、かなり進展していた、というわけなのである。
妄想に近いものである。
核兵器は、大きく言えば、核分裂を使う原子爆弾と、核融合を併用する、いわゆる水爆がある。
原爆には、当然ながら、核分裂しやすい物質が必要であり、ウラン235や、プルトニウム239が使われる。
プルトニウムは、自然界にはないので、製造する必要があり、平和利用を名目に、原子力発電所が使われることがある。
しかし、それは、核の拡散になりかねないので、転用がしにくい軽水炉型が、良く使われる。
つまり、軽水炉の原子力発電所用には、3パーセントから、5パーセントにまで、ウランを濃縮する必要があるが、核兵器を作ろうとすると、実質、90パーセント以上に濃縮する必要があり、それには、国家的な規模の施設が必要である。
ならば、なぜ、東村で、核兵器が作られたなんて話が、出てくるのか?
あまりに、突飛な、絶対に、ありえなさそうな話なのだ。
しかし、村長さんが、あの方なので、わが町長さんは、まじに心配したらしいのである。
つまり、心配する理由が、あったというわけなのだ。
町長いわく、秘密の施設が、あるのではないのか? そう言われたら、なにか、怪しい動きがあるようだ。
もしかしたら、そこに、国が、ぐるになってやっているのではないのか。
しかも、隣の、わが町を差し置いて。
かの村長さんは、例外的な超エリートである。
わざわざ、なぜ、何もない、東村の村長になりたがったのか。(それは、偏見のような気もするが。)
なにか、おかしいだろ。
極秘に、核兵器を開発していた可能性もあるのではないか、というわけなのだ。
ま、なんてことは、やはり、まあ、ないとは言え、町民の安心安全のために、いちおう、調べてみるべき、と、なったのである。
だから、ぼくは、あの入れずの森、に入らなければならないことになった。
町内会費2年分では、ちょっとあわない気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます