『ざ、すぱい』 上の2


 東村の役場には、臨時職員として、我が町出身の工作員が潜入している。


 役場での立場は弱いが、実は、村長以外ではただ一人の、地球大学法学部の出身である。


 彼女は、小説家を目指していて、給与は安いが、勤務時間がかっちりしている村役場の臨時勤務は、必ずしも悪くなかった。


 しかも、正規職員を凌ぐ、恐るべき知識と能力があり、7か国語に堪能であり、村長以外では、役場でただ一人の、バイリンガルで、インテリ志向の村長から、高く買われたのだ。


 彼女は、我が町出身の両親のもとで、首都に生まれ育った。


 実は、両親は、わが町が放った首都工作員である。


 父親は、都庁で働き、母親は、外務省にいる。


 だから、彼女は、絶妙な教育を受けた。


 まさに、エリート工作員なのだ。


 そこに、ぼくのような、低レベルな、すぱいが、指導役みたいに乗り込むのだから、我が町のやり方は、ユニークを通り越しているとも、言えるのだ。


 そこが、良いのである。


 ぼくは、ちょっとボケぎみな、郷土史家という、触れ込みで、しばらく村に滞在するのだ。


 ま、実際、町の印刷やさんから、『西町と、その周辺の史跡』という小さい本を出してはいた。


 わが西町は、かつては、かなりの栄光に満ちた地域であった。


 この辺りの、いわば、首都にあたる場所だったのだから。


 いまでも、お城の跡が、山の上には、ちゃんと残っている。ただし、道はすでにない。


 荒れ果ててはいるが、柱の礎石とか、旗を立てた穴とか、石垣の一部とかである。


 お城の下には、かつての城下町の名残が、少し残っている。


 つまり、ちょっとした、石畳の道筋が残されているのだ。


 しかし、やがて、落ちぶれて、ただの田舎町になったのである。


 なわけで、良く分からない、古いものは、やたら、沢山あるのである。


 掘れば、必ずや、何かが出てくるのだが、ご多分に漏れず、予算がないのである。


 

        🏯

        



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る