『ざ、すぱい』

やましん(テンパー)

『ざ、すぱい』 上


 ぼくは、引退した、サラリマンをしている。


 その正体は、町内会長閣下の、すぱいである。


 周辺の各町村内の動静を探り、不穏な企みは、早めにつみとるのが役目なのだ。



 ある日、集会所の台所から秘密の通路を降りた物置の一角にある、すぱい本部に呼び出された。


 ミス・すわん(コードネームである。)が、臨時受け付けに座っていた。


 ぼくは、帽子を傘立てに引っ掛け、言った。


 『こんちは、ミス・すわん。今日も綺麗だね。』


 『んだ。畑から、摘んできたずら。Zが、お待ちかね。』


 『あいよ。』


 Zは、諜報部長である。 


 普段は、町の電気やさんをしている。


 盗聴器など、お手のものだ。


 彼は、いまや、物置の一番奥に、ひっそりと座っていた。


 『やあ、オールワン、良く来てくれた。』


 ぼくの小中学校時代の通信簿の成績を参考に作られた、コードネームである。


 『あなたの店の方が、良いのでは?』


 『まあ、これは、格式というべきものだ。さて、本日の用務だが、実は、驚くべき情報が、盟友、南町筋から入った。にっくき東村が、超小型核爆弾を製造し、既に配備をしたらしい。事実ならば、ゆゆしき事態だ。真相を探ってくれ。ついでに、破壊し、さらに、サンプルがひとつ欲しい。』


 東村は、我が町や南町を吸収し、あわよくば市に、昇格を狙っていた。


 人口は少ないが、広大な面積の土地、地下資源、森林資源を持っている。


 『ひとつしかなかったら?』


 『サンプルが優先ずら。危険な任務だが、町内会は、一切関知しない。もし、囚われても救出しない。成功報酬は、町内会費の2年間免除。』


 『分かってます。』


 すると、技術部長である、彼の長女が現れた。


 町立大学で、ロボット工学の研究をしている。


 『今回の、お助けグッズだ。頼む。』


 『はい。では、説明します。じゃじゃん。』


 彼女は、箱の中から、実に怪しい物体を取り出した。


 『すぱいGです。同じタイプが5台。地上を換算時速150キロで走ります。短距離なら、飛ぶことも可能です。小さな隙間があれば、どこにでも潜ります。スーパーアイは、あらゆる物質を透過観察、録音録画デジタル秘話通信します。自爆機能もあります。人間なみの会話能力があります。人の体内に入って、自爆することも可能だし、小型爆弾を体内に装着も出来ます。他にも機能満載ですが、こちらが、コントロール装置。スマホ型です。スマホとしても、もちろん使えます。費用は町持ちなので、無駄遣いしないでね。G機能の操作マニュアル付きです。よろしく。できれば、Gも、スマホも、壊さないで。お高いから。あとは、あなた次第です。』


 『まあ、頼む。東村村長は、地球大学大学院卒の超エリートで、まだ若い。将来の総理を狙っている。世界征服も企んでいるらしい。危険人物だ。世界平和のために、是非とも頑張ってくれたまえ。』


 地方の4流大卒のぼくは、そういうタイプが苦手である。


 なんとなく、頭から、馬鹿にされる雰囲気があるし、実際に、なかなか対抗出来ないからだ。


 サラリマン時代に、深く身に染み付いた、良くないイメージだ。


 しかし、実力以外には、勝てる道はない。


 町内会すぱいは、数少ない機会になりうるのだ。



 で、ぼくは、再び、町に放たれたのである。




         🕵️


 

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