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「はい、ワイルドカード! へへへーん、またあたしの勝ちね」
「あーリンのおねーちゃん、UNOって言ってないよぉ」
ユメが早速抗議する。
「ワイルドカードで上がるのは反則だってニシ兄ちゃんが言ってたぞ」
カヅキは場のカードを拾ってリンに押し付ける。
「いいかい、子どもたちよ。負けを認めるのも大人になるってものなんだぜ」
カッコつけた物言い=あぐら&車座になって子どもたち4人とカーペットの上でカードゲームに興じるリン/今日だけは大人びて見える/実際はここにいる中で最年長/子どもたちとお風呂に入ってプーマのジャージに着替え済み。スポーティーなショートヘアはまだしっとりと濡れており、赤い
カナ/皿を丁寧に手で拭きながら
ニシがいない2日目の夜=夕方前に社の
古風な木造アパート/壁を打ち抜き1階部分を広いダイニング/リビングに改造。懐かしい質感&巨大な50インチテレビが絵画のように鎮座。
テレビの前=自称・神/カグツチが食い入るようにドラマを見ている。
あの様子だとたしかに子守をまかせっきりにするのは不安。いや神に対して不敬だっただろうか/いやあくまで自称なのだからいいか。
カチャリ=洗った皿を置く。
「晩ごはん、おいしかったわね、モモちゃん」
何気ない会話=同じく台所で家事をしている相方へ。
「もちろん。ニシ兄ぃが作っておいてくれたハンバーグですから」
「ポテトサラダ、モモちゃんが作ってくれたんだよね。おいしかったわよ」
「はい、ありがとうございます」
あれ、こんな子だったっけ?
先々月 海で話したとき=明るく/ハツラツ/同じマジカル★ガールズ好き/土曜朝7:30からの放送を見ている同志。
これがイマドキの子=怖い?/反抗期?/もしかして生理?
モモは子供らしくない仏頂面のまま、明日の朝食のためのサラダを用意している/その後頭部の周囲でマジックペンで「A」と「B」と書かれた式神がふわふわと浮遊している。
式神か。いいな。かっこいいじゃん=まるで陰陽師/あのアイデアは無かった。
「その式神、いいわね。私もほしいな」
「アニラとバサラです」
「そ、そうだったわね。その魔導の発動キーはどうやって編み出したの? やっぱりニシ──お兄さんに教わったの?」
「はい」カナの背後でビリビリとラップを割く音が響く「わたし、なかなか魔導が上手にならなくて。でもニシ兄ぃのアドバイス通り何かに命令する形をとったらうまくいったんです。だから。ニシ兄ぃのおかげです」
慣れない敬語で言葉を紡いでいる──しかしニシとの信頼関係はわかった=家族や兄妹以上だ。
やはり体系的に魔導を習ったニシは指導に向いている。たいていの人はマナへ感応力があっても十分に使いこなせないままな人が多い=特に緑や青といったレベルの低い魔導士なら特に。
さすが/やっぱり/いつも/すごいニシ。この才女カナさんが文句無しでハナマル100点をあげちゃうレベル。
「先週のマジカル★ガールズ、良かったですね」
モモから話が振られた。
「ほんとーおもしろかったね。最強のフォーチュナー・ハスターにとどめを刺す魔法「ララバイ」、結局逃げられちゃったけどやっぱりリリカちゃんとホノカちゃんは協力しあわなくちゃね。でもでも、最後の最後でライバルだから喧嘩別れしちゃうんだけど、私、思うにすっごい大親友だと思うの。だからこそ喧嘩もしちゃう、的な」
はっとして言葉を止める/つーんとした視線を感じる。
「ところでカナさんの魔導って、どうしてマジカル★ガールズのマネをするんですか」
ドキリ=「いやいや、あれはね。ふかーい意味があるのよ。マネとかじゃなくて」
カナは慌てて振り返った/ジト目のモモとピタリと目が合う。
「でも、いいと思いますわたしは」
「あ、そう。ありがと」
「でもニシ兄ぃは、魔法と魔導は違うって言っていました。魔法は何でもできるけど、魔導は、ええと、ニンシキ? をグゲンカ? する術だと」
「ええ、間違えてないわよ。よく勉強しているのね」
大人らしく褒めてあげた/でもモモちゃんはぶすーっとした表情のまま=子供って案外複雑ね。
A、Bとマジックペンで書かれた式神がすぅっと洗い終わった皿に近づくとそれぞれを食器棚へしまう/まるでもうひとりの使用人。
「だいたい片付いたわね。モモちゃん、あとは私がしておくからお風呂に入っちゃいなよ」
家事はまかせなさい=ここは大人としての余裕を見せおかないと。
「お姉さんって───」モモが薄く口を開いた。
キュン=なにそれかわいい/その呼び方、もう一回言ってほしい。
「お姉さんてニシ兄ぃの、何なんですか?」
子供らしい脈絡のない質問/意味のない質問? 子供なりに真剣に考えた質問? どう答えたら正解?
カナが迷っているうちにモモの次の質問が来た。
「お姉さんってもしかしてニシ兄ぃの彼女さんなんですか? 付き合ってるんですか」
びっくり=そんなふうに思われていた。しかしちびっこリン=彼女と思われていないようで安心。
「フフ、そんなことないわよ。同僚であり形式上の上司であり。ま、同じ魔導士のよしみね」
「ヨシミ?」
「仲間ってこと。特に
「ふうん」
モモのうつろな視線=ああ、伝わってないかな。
「じゃあ、お姉さんはニシのこと、好きなんですか」
「
気取られた? いや相手は小学生だ/隠せたはず。
「じゃあなんで、わざわざ家まで来てお世話してくれるんです」
「それは……それは、えっと、それも仲間だから。スキとかキライとかそういうのじゃない。大人はそういう関係もあるものなのよ」
ニタニタ/やったぜ=大人っぽい言い訳ができた。
「ふうん」
モモ=子供なりに理解しようと頑張っている。
「モモちゃんは、ニシお兄さんのことが好きなのね」
もちろん冗談っぽく=家族愛というやつ。
「はい。大好きです」
即答=驚愕/モモの横顔は一瞬だけだけど大人だった。やばい=墓穴を掘ったかも。
「そ、そう。ニシは優しいからねそれに───」
「ニシ兄ぃだってわたしのこと好きに決まってるんです。それなのにサナといっしょにおでかけして、まだ帰ってこないんです」
ああ、完全に墓穴だった=この子の好きは
「ニシ兄ぃ、わたしの気持ちに気づいてるはずなのに全然わたしのこと見てくれないんです。5年も一緒に。あの時、助けてくれたときからずっと一緒なのに」
モモはゴシゴシと目尻を拭いて、それでも泣いていないふうを装っている。
「ニシは、ニシは鈍感だからね。ダメな男ね」
「ダメなんかじゃないです」
手の甲で涙を拭う/しかし隠せられる量じゃない。
「モモちゃん、ほら落ち着いて」
カナは膝立ちになって視線を合わせた=こんなときどうすればいいんだろう。
「わたし、お風呂に行ってきますから」
クルリ=涙を振り払って台所を後にした/はらりとモモの式神が力なく紙切れのように舞い落ちてきた。
カナは2枚の式神を手で包むようにして持ち上げる。
「まったく、モテる男は無責任ね。でも私も。はぁ、不器用ね。思春期の子供の扱いが全くわかっていない」
でも/たぶん。それは私も。
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