第6話 嫌われ美少年を泣かした犬の決意
色々と予想外なことがあったが、立派な畑をゲットできた。
リアムの健康状態もよくなるだろう。
念のため、リス子に畑の番人をして貰い、俺とリアムは散歩にでかけた。
リアムは王子様だが、やらなければいけないことはないようだ。
本来、王子様だと色々と学んだり、公務をしたり忙しいと思うが……。
リアムが不遇な扱いを受けていることは腹立たしいが、今はこうして俺との時間を自由に取れることを喜びたい。
「おい」
リアムと並んで気持ちよく歩いていたのに、耳に入るとテンションがダダ下がる声に呼び止められた。
「アベル……」
「お前が私を呼び捨てにするな」
声の主はやはり、リアムに異母兄弟王子のアベルだった。
今日も肩にあのゴージャスな鳥を乗せている。
『よう、鳥。元気にしてるか?』
『…………』
『無視かよ!』
「それはあの時の犬か? 随分と見栄えは良くなったが……。消えてないし、やはり魔物だったか。汚れた血が混じっているお前にはお似合いだな」
『お前は……またそういうことを言うか! 一回尻を齧ってやろうか!?』
「ひっ!」
俺が怒鳴った勢いでびびったリアムが、躓いて尻もちをついた。
肩にいた鳥は飛び立って空で羽ばたいている。
お前、ご主人様を助けなくていいのか?
まあ、そんなことより、アベルが尻もちをついている姿を見るとスッとした。ふははっ!
「くっ! 私にこんなことをして許されると思っているのか!」
『リアムに怒鳴ってどうするんだ。お前が勝手にビビって尻もち着いただけじゃないか』
「…………っ」
俺の言葉は分からないはずだが、馬鹿にしたことは雰囲気で伝わったのか、立ち上がったアベルが怒鳴り始めた。
「半分は父上の高貴な血が流れていると思って許してやっていたが、そういう態度なら容赦しない! 聖獣よ! こいつと魔物を燃やせ!」
『は? 燃やせって……。ええええ!?』
アベルめ、何を言い出すんだ。鳥もこんな指示に従わないよな? と思たのだが……。
『わたくしの契約者が望んでいるの。まあ、神獣のあなたなら防げるでしょう』
鳥はそう言ってアベルの指示通りに、俺とリアムに火球を放ってきた。
『おい、ちょっと待っ――』
「わああああっ!!」
『リアム!』
どうしたら分からないが、とにかく悲鳴をあげるリアムの前に出る。
絶対にリアムは守る!
こういうときはバリアでも張ればいいのか?
心の中でバリア! と叫んだが、何も起きない。
シールド! の方だったか? どうすればいいんだ!?
あたふたとしている内に火球は迫って来る。
『ああああ! もう自棄だ! リアムだけは守るぞ!』
リアムに怪我はさせない! と決意した俺は、火球に向かって突進した。
「犬!!!!」
リアムが俺を呼ぶ声がする。
こんな時まで「犬」か。
まあ、急に命名されても「誰それ?」ってなるけどさ。
これが最後の思考になるのかな……と思いながら、俺は火球とぶつかった。
その瞬間、爆発が起こった……のだが――。
『……あれ?』
煙がもくもくと立ち込める中、俺は平然と立っていた。
ドッジボールで当てられた時くらいのダメージだったのですが……。
『……はあ。神獣のあなたを死なせることはないと思っていたけれど、火傷一つないのは癪に障るわ』
『鳥ぃ! お前な! こっちは死ぬ覚悟をしたんだぞ!!』
「犬!!!!」
『!?』
猛ダッシュやって来たリアムに抱きしめられた。
……と思ったら、今度は話されて色んな角度から見られた。
どうやら火球を受けた俺の心配をしてくれているようだ。
「お前っ、大丈夫か!? なんでっ! 僕なんか庇って……!」
『この通り、俺は大丈夫だぞ……ってリアム? お前、泣いてるのか?』
心配そうに俺の体を確認してるリアムの目から、涙がとめどなく流れている。
え、なんで? 俺、大丈夫だけど!?
『ご、ごめん。びっくりさせたかな? 俺、全然平気だったから! な? もう泣くな』
「よかった……怪我してない……うぅっ……」
ど…………どうしよう!!!!
リアムを泣かせてしまった……!
まだシクシク泣き続けるリアムを見て、俺はあたふたするばかりだ。
「なんで無傷なんだ……。聖獣! 手加減するな!」
『あのねえ……。あなたが未熟だから、わたくしは力を十分に発揮できないのよ』
アベルは鳥の言葉も分からないようだが、鳥がそっぽを向いているのを見て舌打ちした。
まだリアムを傷つけようとするのか?
『お前、鳥に頼らずケンカするなら自分の拳でこいよ……』
「ひっ!」
噛みつきたい衝動を抑え、唸りながら近づくと、アベルはまた尻もちをつきそうになりながら後退った。
「……ま、まあいい、せいぜいその魔物と仲良くやってろ!」
そう捨て台詞を吐くと、アベルは去っていった。
鳥も空を飛んでアベルを追いかけていく。
『リアム、俺達も帰ろう……』
ようやく泣き止んだリアムの頬にすり寄ると、リアムは力なく笑った。
その笑顔がとても痛々しくて……俺は胸が苦しくなった。
※
「僕の母は、ただのメイドだったんだ」
屋敷に戻り、暖炉の前にリアムと寝転ぶ。
するとリアムは、ぽつぽつと身の上を語り始めた。
「貴族の娘が行儀見習いでやっているんじゃなく、平民で……。でも、容姿には恵まれていた人で、それで王様の目に留まって……側妃になって……僕が生まれた」
創作の物語ではよくある話だけど、実際の身の上になると大変だろうな……。
「平民の側妃が許せない王妃様に、母はずっといじめられていたんだ。最初は王様も守ってくれていたけど、他の女性に興味が移ってからは見放された。僕が五歳の時に母は、王妃様が手を回した者に毒を盛られて……」
リアムの母が亡くなっていることは察していたが、王妃に殺されたのか。
「母が死んだことを申し訳なく思った王様が、今は王妃が僕に手出ししないように守ってくれているけど……僕は将来、国婿をおもちゃにして殺してしまうと有名な隣国の女王の元に送られることになっているんだ」
『は? それって、全然守ってくれてないだろ!』
なんというクソ親父だ。
今から噛みつきに行ってやろうか!
「……ふふ、怒ってくれているの? 僕はもう、諦めているからいいんだ。でもその前に、一矢報いたかった……。だから聖獣という力が欲しかったんだ。それなのに、魔物のお前が出て来て……僕はがっかりした。心の中で、お前にたくさんひどい言葉を浴びせた。……ごめんね」
『謝るな。お前は何も悪くない』
リアムが寝転びながらも、俺の頭を撫でてくれる。
ぱちぱちと爆ぜる火の音と合わさって気持ちがいい。
「でも、お前は僕を守ってくれた。命がけで僕を守ってくれたのは、母さんとお前だけだ。……召喚して、僕のところに来てれたのがお前で良かった……。さっき、お前まで母さんみたいにいなくなるのかと思ったら……怖かった。……頼むから、僕が死ぬ瞬間まで見守って……。ずっとそばにいてくれよ……」
暖炉の温かさと、泣いた疲れがあるのか、リアムは俺の頭に手を置いたまま眠ってしまった。
『……俺が死なせたりしないよ。ずっとそばにいるから』
はあ……と思いたいため息が出た。
『こんな子供が、将来を諦めているなんて……』
リアムの想いを聞いて、今度は俺が泣きそうになった。
俺も社畜でつらい毎日を送っていたが、それでも未来に小さな希望があり、がんばれた。
でも、リアムの希望だったことは『一矢報いること』。
命がけで王妃に復讐したかったのだろう。
『お前が復讐を願うなら、俺は手伝うよ。その時は俺も一緒だ。でも……。できれば、あの愛犬家イケメンみたいに笑っていて欲しいな』
俺が本当に神獣なら、リアムをきっと救えるはずだ。
『約束する。絶対に一緒にいる。元の自分に戻ることができると言われても……俺はお前の隣を選ぶよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます