第十五話 ご依頼はこちらで

 虹雨が席を移動しながら、女子高校生たちに向かって言った。

「……また出ましたか? 例のアレが」


 女子たちの一人、一香が答えた。

「はい、学校の坂でまたあの白いモノが現れたって……」


 虹雨は興味深げに頷いた。彼女たちは図南高校怪奇部と言ってもともとはサークルであったが心霊ブームで人数も増えて部として昇格したばかり。

 虹雨たちのことは動画では知っていたようだが部活動の一環として相談に来たという。

「この中ではまだ誰も遭遇してないんだね?」


「そうです。でも、ここ数日で何人かが怪我をしてるみたいで……ほとんどの子が白い何かを追いかけた後に怪我をしたって言ってます。通学路だから、皆心配してるんです。これ以上の事故が起きたら大変ですから」


 その話を聞いた宮野が割り込んできた。

「君たちは蓬高校の隣の図南高校だろ?……今日は早帰りかい?」


「え、誰この人……」

 宮野の突然の登場に、女子高校生たちは冷めた目を向けた。


「その坂はかなり急だからな。歩行者と自転車の事故も多い。安心しろ、私は警察官だ。胡散臭い除霊師よりはまだマシだろう?」

 宮野は警察手帳を見せたが、女子高校生たちはさらに不信感を抱いている様子だった。


「それに、その白い何か……近くには養鶏場もゴミ箱もクリーニング屋もないはずだ。そもそも追いかけるのが問題なんじゃないか?」


「でも、皆追いかけちゃうんです……。それに、その白いアレはその後、誰にも見つかっていませんし」


 虹雨が手を叩いて言った。

「なるほど、現場には何も残らないわけだ。そしてメールの内容からして、風がないのに動いたり、動物のように動いたりしている……。安全のためにも、詳しく調べてみる必要があるね」


 女子高校生たちは安堵の表情を浮かべて頭を下げた。

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


 その様子を見て宮野は肩をすくめた。虹雨はメニューをさっとだした。

「そうだ、君たち、喫茶の手作りパフェでも食べていかないか?」


「えっ、タダで?!」

 女子高校生たちは目を輝かせたが、虹雨は首を振った。女子高校生たちはそれぞれ顔を見た。


「いや、時間がないので帰ります。それにテスト期間中なんで早く帰ります。お金の方は初回相談込み込みパックで怪奇部の部費とカンパで出しますので領収書切ってください、おねがいしまーす」

 と一香が怪奇部の名刺を机の上に置き3人は去って行った。

「は、はい……。じゃあまた連絡します」

 虹雨もがっかりだがカウンターで見ていたマスターもがっかりした様子だった。


「喫茶店にきたら何か食べたり飲んだりしてくれよ……はぁ」

 



 その日の夕方。


「渚さん、遅いですね……」

 由貴が片付けをしながら言った。


「そいやおやつタイムもそこまで忙しくなかったなぁ」

 虹雨が答える。チラッと今日の売り上げを見る。


「にしても、おやつタイムはあんな感じだったのに、ランチタイムの混み具合と言ったら……」


「だよな。なんかSNSでうちの味噌カツランチプレートがインなんたらエンサーにアップされたらしい」


「インフルエンサーな、途中まで言えてたのに」


「そそ、エンサーな」


「略すな」

 虹雨と由貴は幼馴染同士、会話も漫才のような軽妙さがある。


「まぁ、うちに来るエンサーは最後までちゃんと食べてくれるからええよな。中には写真を撮ってインスタに載せたものの、食事半分食べただけで帰る不届き者もおるからな」

 虹雨はメニューを開き、渚が描いたお手製メニューを見つめた。


「まぁどうでもええけど、マスターの味噌カツは美味しいからなぁ。残したらマスターもショックやろうなぁ」


「いや、マスターだけじゃない。とんかつにされた豚が恨むだろう」


「こわっ。もったいないお化けより豚の方がリアルで怖い、見たことないけど」


「それよりも怖いものを、俺たちは毎日見てるけどな」


「まぁ、そうだけどねー」


 そんな会話をしていると、入口から誰かが入ってきた。


「喫茶はもう終わって……って、渚ちゃん?!」


 入口には、渚が立っていた。彼女の両膝からは血が流れ、顔は半泣きだった。


「痛かったよぉ……!」

 と、渚はその場に泣き崩れた。

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