第十一話 諸説あり

「でもまぁエセ口裂け女も流行に乗っかったな……」


 幽霊たちは現世に残る理由がさまざまだが、あまりにも弱い幽霊だと誰にも気づかれずに彷徨い続けるだけ。

 しかし、メジャーどころの幽霊に化ければ、人々を怖がらせることができる。


「流行って……。あ、一応、そのドラマの原作の書籍発売の時期にも依頼のメールがあったみたいやな。でも虹雨は無視してるし」


「あん? 口裂け女って聞いただけで色々面倒やし……」


「面倒とか言うなや! 放置したんやろ……放置したからまたこのドラマ化のタイミングで大暴れしたんやろ」


「マージーかー……」

 自分のしてしまったことに後悔する虹雨。


「後回ししたつけが回ってきとる。いつもそうや、虹雨」

「すんません」

 絶対反省していない声である。由貴はため息を付く。いつものことだとはいえ呆れてはいるが諦めている。


 ようやく口裂け女除霊に本腰を入れ始めた虹雨。少しでも収益につながるのであれば……ある意味彼ら自身もエセ口裂け女たちと同じように流行に乗っかっている気がしないでもないが。


 マスターが何かを虹雨に投げた。虹雨はガシッと左手で受け取る。


「……ポマードの整髪料?」


 レトロな容器だ。開けると、独特な匂いが鼻を突く。虹雨は顔を顰めた。


「コーヒーの香りに邪魔になってしまうので……使わずしまってました。かなりだいぶ前のなので……」


 虹雨と由貴をマスターが二人を微笑んで見送った。


「ありがとう! マスター!」


「お気をつけて!」


 

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