第十話 のっかる?
由貴は素早くスマホで口裂け女についてネットで検索を始めた。
「載っとるわ。岐阜県〇〇郡が口裂け女の発祥地やった」
「まじか!」
「昔、子どものころテレビ番組でやっとったわ……そんな重要なこと、すっかり忘れとった。ありがとうございます! マスター!」
由貴が感謝の気持ちを込めてマスターの手を握ると、マスターは少し困惑しながらも再び話し出した。
「いや、意外と岐阜が口裂け女の生誕地ってのは知られとらんのよ。わたしもテレビ番組で知ったけど、諸説ありってやつだ。全国でいろんな憶測が飛び交ってるが、岐阜が一番濃厚らしい」
虹雨は頷きながら、手元のスマホ画面を見つめる。
「……一番厄介なやつや、『諸説あり』って」
除霊系動画配信者として、幽霊やお化けの由来が様々な説で語られていることほど、悩ましいものはない。
伝承は途中で創作や記憶違い、伝聞で歪められることも多く、「ここが発祥地だ」と言っても別の場所から「いや、こっちが正しい」と反論が出ることが少なくない。だからこそ、「諸説あり」としか言いようがないのだ。
「そいや今、〇〇郡がモデルになってるミステリードラマやってますよね」
と、マスターが突然思い出したように言う。
「なんやったっけ?」
虹雨も由貴もドラマには疎い。二人ともテレビはあまり興味がない。
「この郡出身の作家が書いた小説がドラマ化されたんだよ」
マスターが作者名と書籍名を口にすると、由貴は慌ててスマホで調べ始めた。そして、画面を虹雨に見せながら答える。
「確かにそうやったな。この作家、〇〇郡出身やな。土地名は別のものに置き換えとるけど、どう見てもモデルはここや。それに、小説サイトにも〇〇郡がモデルだって書いてあるわ」
「……まさか?!」
由貴はさらに親指を動かし、何かを検索し始めた。
「やっぱりな……」
由貴の目が画面に釘付けになる。
「何がやっぱりや?」
虹雨が苛立ち気味に尋ねるが、由貴は答えない。代わりに、さらに検索を続け、ようやく口を開いた。
「やっぱりや……除霊依頼が集中してる日は、ドラマ放映の後なんや!」
虹雨はため息をつきながら、眉をひそめる。
「要するに、ドラマが放映されるたびに口裂け女が出てくるってことか……これは一筋縄じゃいかんぞ」
由貴は興奮を隠せず、スマホをしっかりと握りしめる。
「つまり、これって僕らの動画の視聴率上げるかもしれん。これは良い画が撮れそうやで、虹雨」
「……よし、行くか」
虹雨が決意を固めたように言うと、由貴が心配そうに尋ねる。
「虹雨、大丈夫か?」
「ああ。全部を片付けるのは無理やけど、一つ接触すれば他の口裂け女もやっつけられるやろ。芋づる方式でな。んでめっちゃすっげー動画作ってみてもらってそれでがっぽりや!」
こうして、二人は〇〇郡へと向かうことを決意した。
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