第五話 除霊するの? しないの?

「……虹雨さんはお写真でしか見たことなかったかと思いますが彼はすごい良い筋肉で。憧れでした」

「たしかに、あなたも凄い筋肉ですが……まさか」

 桐生は微笑んだ。


「虹雨さん、僕たちと同じっぽいから言うけど同性愛者なんです。あ、女性も大丈夫なんでバイセクシャル」

「は、はぁ」

 虹雨はギクリとした。彼自身はバイセクシャルというよりもホモセクシャル寄りの好きになってもらったら誰で好きになるパンセクシャルだけども性的ではないノンセクシャルも混ざっている。

 でも他人から自分のセクシャリティを指摘されるのは嫌である。それにそんな仕草も雰囲気も出していないのにと虹雨は桐生が何を感じているのだろうか不思議でたまらない。


 藤澤と桐生は付き合っていたのだ。藤澤はかすみと付き合っていたし、桐生はかすみのことを気にしていた。


「藤澤くんがかすみの肉体……まさか筋肉に乗り移ってるなんて。ああ……」

 落ち込む桐生に虹雨は

「でもこれかすみさんの中に藤澤さんがいますから、共に生きれますよ」

 と先ほどかすみが言った言葉を投げかけた。


「……はい。でも僕はあくまでも知らない、というていにしてくださいね。僕はひっそりと藤澤くんのいる筋肉を愛します……聞こえますかねぇ」


 虹雨はうーんと考える。とある筋肉系お笑い芸人が筋肉に話しかけてるネタをしているのを思い出したのだがそれをやってみるとか? なんて提案するのも……と躊躇した。


「……感じ取ってはくれるかもしれませんねぇ」

 としか虹雨は言えなかった。


「それに僕は……バイセクシャルではない、それだけは伝えておきます」

 とは言った。


「……そうなんだ。あと体鍛えたらもっといいと思うけどジム紹介しましょうか?」

 ニコッと笑う桐生。さっきよりも距離を詰められているが虹雨はなんとも思わない。


「まぁ考えておきますよ、お安くなるなら。……ではご依頼のお代を……」

 ビジネスモードの虹雨に戻った。桐生はがっかりしている。虹雨はこういうのに疎い。実は桐生に惚れられていたことにまったく気づいていなかったのである。



 その夜、桐生はかすみの全ての筋肉にキスをした。でもかすみにとっては複雑な気持ちで、その筋肉は自分でないのにキスをするだなんて、という。

 2人のすれ違いはかすみが死ぬまで続くのだろう。


 動画では桐生と藤澤のことは触れなかった。触れるものではなかったとも思っているし互いに墓場に持っていくレベルの話である。


 虹雨はやっぱ除霊しても良かったのでは……とも思ったが流石に人の命は落とすわけにはいかなかった、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る