シンクロカップル

第三話 シンクロな関係?

 依頼日。


 一度SNSのDMにて面談を受けてから一週間経った。


「づかれだー!」

 虹雨はとある山の登山路の途中まで辿り着くとグターっと倒れ込んだ。まだ寒さは残るが登っていくうちに汗もじわりじわり。着慣れない登山服に動きもぎこちない。

 ただでさえ登山は初心者なのにこんなモコモコとした登山服では調子が乗らないようだ。


「これで……へたばってたら撮影どうすんのよ」

 と登山までの撮影を重い機材を運びながらして、同じく登っていた由貴。彼は酸素を吸ってる。明らかに彼の方が虹雨よりも負担が大きいのは目に見えるが体が大きい割には登山向きの体質ではないようだ。


 2人とも本格的な登山経験ゼロ。

 虹雨たちは、なんでこんな依頼を受けてしまったんだと後悔しつつも依頼=お金だからという安易な考えは本当にこれからはしてはいけない、と思いつつもどんな依頼でも受けなくてはいけない……ネット社会で動画配信者が増え続け心霊系のコンテンツも虹雨たちを見てかどうかわからないが増えてきたのだ。弱肉強食時代が彼らにさらに押しかかる。


 由貴は虹雨の肩を叩き指を指す。その場所には小さな個人で作ったであろう慰霊碑があった。

 そこには誰からのものかわからないが花やジュース、お菓子などが手向けられてるが一部古びたものもある。




「本当にすいません、こんなところまで……」


 目の前には登山が趣味の30代のOL、雁坂亜美。溌剌とした感じでショートヘアーだが美人の分類。ハンサムウーマン。

 由貴は少しタイプのようだが会った時から少しドキドキしてるのは虹雨にもバレている。由貴は喫茶店の娘、渚に片想いしていると言うのに……と呆れた目をしながら。

 彼女は真新しい花束やジュースを持ってきており、古びたものを適切に処分できるよう袋に仕分けして入れた。

 中にはタバコがあってまだ吸えそうではあったろうが非喫煙者なのであろう、問答無用にゴミ袋に入れた。


「いえいえ、いい経験ができましたよ……ここも登ることができるのか。ずっと遠くから見ていましたが」


 と、虹雨は平気そうな顔をするが絶対に平気ではないのは見え見えであった。そしてむせた。


「大丈夫です? よかったら酸素……」

「では、いただきます。……誰かさんは自分の分しか用意してませんからねぇ」

 とチラッと由貴を見てもらった酸素ボトルのパッケージを颯爽に開けてスーハースーハー必死に吸い込む。由貴は自分のことだ、と思いつつもある程度呼吸も落ち着きそそくさと機材の準備に取り掛かった。


 そして虹雨たちにはみえていた。由貴も頷く。山の麓で落ち合った際に何か亜美の横に白いもやがあった。彼女が動くたびにそのモヤも動いた。


 なんだろうか、ただこれは白色であり彼女の守護霊かご先祖様、良い霊であるとコウは判断したが山を登っていくうちにその白いモヤは亜美の動きとシンクロする。


 そして次第に人型になっていき、くっきりと人型になり、慰霊碑を前にして亜美の横で1人の男の姿が見えたのだ。まるで本当にそばにいるかのよう。彼女よりも少し大きな青年。


 驚いたことにその青年の霊は全く亜美と同じ動きをしていたのだ。


 体の動きだけでなく喋る時、瞬きする時の動きが全てシンクロ。

 双子以上、全くのコピーだ。もちろん今も全く同じ動き。


「ここで事故が起きたのです。落石に遭い……私と彼が……」

 亜美の横にいるのはその彼、藤澤天馬だった。依頼をもらった時に新聞記事で確認したところ当時地元では大きなニュースになっていた。亜美も大怪我を負っていたのにも関わらず奇跡の生還だと書いてあった。今ではこうして険しい登山も再びできるくらいだ。


「2人で落石に当たったのに私は気づいたら山道にいたのです。藤澤くんは……即死。私は大怪我を負ったのにも関わらず麻痺も後遺症もなく……今この通り、リハビリもせずよ!」

 と確かに大怪我をしたと思えない動き。


「……でも3年この山には登山は怖くてできなかった。そろそろ彼に会いたいと思って」

 表情も瞼の動きも皺の動きまで。なぜここまで……。虹雨はぐるぐる彼女の周りをまわる。由貴も合わせて動く。亜美が動くと隣の藤澤も動く。

「亜美さん、しゃべって」

「は、はい……」

 首元の動きも全て。虹雨は確信した。


「なるほどね」

 虹雨にはわかったらしい。亜美はごくりと唾を飲み込む、その動きも同じく。


「……もう彼はあなたのそばにずっといましたよ?」

「えっ!」


 亜美と藤澤は同時に驚く。由貴は始まった! とカメラを虹雨に向けた。


「最初、彼があなたに乗り移ったのでは……と思いましたが……なんか違う。亜美さんと藤澤さんが同時に動く、表情も同じだ」

「……そうなんですか?」

 まず乗り移ったこと自体彼女はピンときていないようだ。意志もほぼ彼女のもののようだ。完全に乗り移られていたらこんなふうに動かないのだ。


「非常に稀なケースですが……藤澤さんは……亜美さんの筋肉に乗り移ったのです!」

「筋肉?!」


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