第45話
コウと由貴は市役所に向かった。以前もその市役所にて除霊の依頼があったのだが、またかと。依頼があるからには行くしかないのである。
今回は違うことで行くことになったのだが……。由貴の様子がなんかおかしいことにコウは気づいていた。
「渚ちゃんのことか」
図星で、由貴は顔を真っ赤にする。自分に関することは疎くても他人の恋バナに関してはそうではなさそうなコウ。
「あの子は……コウのことが好きだから」
「らしいな」
「わかってて何もアクションしないのか」
「……見ただけでわかるだろ、お前と渚ちゃんは。それに俺がアクションかけないのは好きでも嫌いでもない、上司の娘だからってことだし」
すると由貴がコウの手を握る。
「じゃ、じゃあ……別に僕はこのまま渚さんにアタックしてもいいってことか?」
「い、いいんじゃない? 俺はラブではないからあとは渚ちゃん次第じゃないのか……」
「ああ、そうかそうか」
由貴はどう告白するか、また悶々と考え始めた。仕事中だというのに。
そんな由貴をコウは複雑な顔で見ていた。
「……」
事務所から市役所までは歩いてすぐである。市役所の本庁、受付に行くとそこに座っていた受付の女性が二人を見て手を振る。
コウがクールに挨拶を返すとキャーと叫ぶ。
公務を忘れているようだが、その後来た訪問者が来るとすぐに表情を切り替えていた。
「やれやれ、もう人気者だな……コウは」
子供の頃ヤンチャして変顔ばかりしてたコウを見ていた由貴は今や言動やルックスでワーキャー言われてるのを見るとむず痒くなる。少し羨ましいのもあるようだが。
「ほんとだねぇ。ファンレターが紙と電子メールでもくるからなぁ。最近はものも届いて助かる」
ギザに髪型をポッケに入ってるコームで整える。昔から少しナルシストなところはある彼だがそれが反対にスター性出たのもその性格をいかせているのでは。と、由貴はすこしは珍しくポジティブに考えた。
「そいや食材来てたけど美帆子さんがいうには手をつけない方がいいらしいからサイトにはナマモノ、食材はお断りって書いておいた。申し訳ないけど」
「そうなんだよなぁ、残念だが」
ここのところ動画を見てコウのファンになるものが少なからずいて物資まで送ってくれてお金プラスアルファという形で助かっているのだ。
「あともう一つ追加しておいてくれ」
「ん、なんだ?」
「手作り品」
「ああ、なんかセーターやマフラーとか……はあ、お前のために編むとかすっごいよな。でもそれもダメなのか?」
もちろん由貴の分はなかった。コウは人差し指を揺らした。
「昔の事件の案件を読んだが……ストーカーの女性が殺された事件、その女性が男に贈ったのは手編みのマフラーなんだが、毛糸の中にその女性の髪の毛も編み込まれていたんだよ」
とその話を聞くと由貴は鳥肌が立った。
「それに特定の人に向けての手作り品は普通のものよりも情が篭りやすい……ああ、このスーツも……」
以前あの亡くなったテーラーに生前作ってもらったオーダースーツ。コウは大事に着ている。
このスーツのフィット感、雰囲気が今のコウの人気につながっているのかもしれない。
由貴はスマホのメモ機能で
「手作り品もお断り、と」
と書き込んだ。
そんな二人が向かうのはこども課なのだが、とある人に止められる。
「コウ先生、ご無沙汰しています!」
「あ、洲崎さん」
コウのことを先生と呼ぶ男、洲崎という50代の定年間近である、黒ぶちめがねの男であった。
「この間はどうも」
「いえいえ。あれからどうですか」
「はい、なんともなくて……職員たちもホッとしておりますよ。この忙しい時期に助かりましたよ」
ちらほら役所内を見るといつもの業務に加えて無数の段ボール、老朽化しているこの構内を現在建てている新しい市役所に移転するための作業もしているとのことである。
「トイレの花子さんが市役所にいるっていうのも面白かったですねぇ……」
「そうですよ、小学校だけじゃないんですね、花子さんは」
そう、この市役所内の奥のトイレに泣き声が聞こえると噂があり壊される前にと依頼があったのだが、コウたちが向かうとなんということか……なぜかいたのだ。小学校の怪談で有名のトイレの花子さんが。
「市役所に花子さんが出てくるだなんてすごく不思議なことですよ、本当に」
「俺もこんなところで出くわすとは思わなかったですよ……」
トイレの花子さんと言っても今回は小学校のトイレで亡くなった子供の霊がトイレの花子さんに転生して浮遊していた幽霊なのである。
由貴はふとスマホを見て先日アップした市役所のトイレの花子さん除霊動画を見ると再生数、コメント数ともに過去一番反響が多く、いまだにじわじわ伸びているのである。
「一応聞いてみたんです……花子さんに何故市役所に来てしまったか」
「おや、それは動画では語られていなかったことですね。すごく興味深いなぁ」
「まぁ、そうですね」
コウは思い出した。
市役所の奥にあるトイレの奥の個室で泣いていた少女の姿。市役所には似つかない少女の姿。市役所で女の泣き声がすると聞いてきたものの何故子供が、と。
由貴の方が子供の扱いには慣れているため彼が声をかけるとその少女は何故かホッとして泣き止んだのだ。
「何故そこにいるんだって聞いたら、連れてきてもらったと」
「連れてきてもらった?」
洲崎は目を見開く。どうやらどこかの学校から流れ着いたトイレの花子さんだったのだ。
「前にいた学校のトイレが汚くて。それに小学校じゃなくてどこかに逃げたくて泣いていたらそこの生徒がここまで連れてきてくれたって。でもここにきても奥のトイレだから日当たりが悪いし人も少ないし……でも前の学校よりかはしっかり掃除されてるし、マシだったわって」
「マシって……一応市役所全館は古いですがちゃんと隅々きれいに掃除していただいていますから」
確かに市役所の職員、市民、警備員、そして清掃スタッフも何人かがいる。
「一体花子さんはいつころ来たんだろうか」
「泣き声は一年前からってことは一年前に近隣の小学生が来たというのは……」
洲崎はうーんと思い出す。
「まぁ市民の中で来る小学生は数知れずですが……毎年市内の小学生が見学に来ることはありますがこのご時世なので……」
と言った脇で近くにいた彼の部下が
「洲崎さん、そういえば一年前に一回だけ隣の小学校の人クラスが少人数で見学に来ませんでしたっけ」
と言う。
「あーそうでしたな。少人数であれば、と……それと」
「それと?」
「個別で職員のお子さんがお父さんお母さんの職場見学をしてレポート提出するってことで何人かはみてはいましたが」
「なるほど、その小学生の誰かが……連れてきた」
コウと由貴は目を合わせる。
「その子について来たって、僕らみたいにみえる子がいるってことか」
「そうだな、まぁ霊感のある人はゴロゴロいるが……幽霊を移動できる能力があるのは危ないぞ」
「そうだな。そんなことしたら各地に散り散りになって除霊するにも手間がかかり過ぎてしまう」
その時だった。2人は同時に身震いをした。
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