第十二章 市役所にもなにかいる
第44話
またまた数ヶ月経ち、二人の仕事は途切れなく依頼が入った。
それは喫茶店でのウエイターの仕事も含め。動画も短めの動画を上げるようになってからは再生回数も増え全国各地に呼ばれることも増えた。
基本は地元で除霊をし、時たま他の地域へ、というスタイルが板についてきた。
『帰ってきてから早々ほんとお疲れねー、はい。明日からも精出して! 生姜マシマシ唐揚げー』
「助かります、美佳子さん」
コウと由貴はヘトヘトである。とくに霊がよく出るのは夜なので朝帰りもザラである。
冷蔵庫に食べたいものを適当に入れておき、美佳子が現れる夜のうちに作り置きを用意してくれるように頼んだりもする。こうして夜に間に合った時は美佳子が用意してくれる。
「ほんと一気に大忙しになったなあ……寝る暇がない」
「由貴、何言ってるんだよ。俺の方が除霊しとるからしんどい。これ食べたら塩風呂入るわ」
「は? 俺はこの後3本撮りしたやつを編集しなきゃ。徹夜だー。短い動画でもストックしておかなきゃだし」
「あん? 俺はその三本の仕事の報告書を書いて朝イチに所長のところに持って、喫茶店の手伝い……はぅーどっちにしろ二人して忙しい、うん」
と二人は疲れのあまり言い争いが増えたような、前と変わらないような……。
「もう無駄な争いはしたくない。さっさと食べて風呂入って寝るしかない」
「そうだな。ごめん、美佳子さん。うるさくして」
美佳子は首を横に振る。
『なんか最近幽霊界も騒がしいわねぇ。ずっと働きっぱなしだもん』
「俺らの活躍が増える、それを動画で流す、それ見た人が依頼する、仕事をする、それな。本当嬉しいのやらなんなのやら。他の霊媒師よりも俺ら指名が多いんだよね。分散してほしい……」
『ほんと無理しないでね』
「ありがとうございます……」
ツンツンしながらもちゃんとお礼を言うコウだが、やはり相当疲れているようである。
「なんかずっと賢者タイムみたいな気分」
それを聞いて美佳子は笑うが由貴はコウの頭をバシッと叩く。
「女性の前でまたっ!」
「事実なんだし……風呂入ってくるー」
『はーい』
「美佳子さん、デリカシーなくてすいません」
『なんであなたが謝るの? もう、うぶなんだから……そこがいいのかもね』
と美佳子におちょくられる由貴。
コウがたっぷりの塩風呂に浸かっている間に由貴は片付け、そして編集作業。
得意でもあるし好きでもあるがそれを今まで仕事としてなかった。よく趣味を仕事にすると良くないとは聞いていたがそれはその通りだ、でも自分の動画を見て面白いです、編集最高です、カメラの画質良いです! とコメントがあるとやりがいを感じる。
由貴も加わって少しずつファンも増えて今では依頼だけでなくファンレターやプレゼントもいただいたり、塩風呂の塩やお守りも。
『これって料理に使えるかしら』
美佳子が今日届いていたプレゼントの塩を見て言う。
「それ、渚ちゃんにも言われた。食べられないと書いてあったら乾燥剤入ってるんだよね。コウが愛用してるのはキッチンソルトだから使えるけどな」
『ふぅん』
と言いながら由貴をじろっと見る美佳子。
「えっ、どうして?」
『渚ちゃんとは仲良くなった?』
「一応喫茶店では先輩だし、よくしてもらってる……美帆子さんの娘だし」
『でもコウちゃんは由貴くんは渚ちゃんに一目惚れしたって』
「コウー!!」
由貴は浴室に走っていった。
『さて、私は帰りましょうか………由貴くんも悪くはないけどねえー』
と、くすくす笑いながらドロン、と美佳子は消えた。
コウと由貴は眠い目を擦って朝イチの真津喫茶店に訪れる。
「おはようございます、もう用意してありますよ」
と渚が出迎えてくれた。だがやはり渚の目線はコウの方にある。
彼女は2人とはそう歳は変わらないが恋愛経験がない。彼女のそばにはやはりあの首無し美月がいる。コウはあまり話すことはないし、由貴も接することはない。二人は日々の除霊作業で何も悪さをしない霊に対してはあまり関心を持たないようにしていたりもする。
2人が喫茶店で朝ごはんを食べていると美帆子がやってきた。そして一緒に渚もおかわりのコーヒーも注ぎにきた。由貴はニコッとコウの分のコップを渡すと渚はそうじゃないっていう顔をする。
コウは軽く会釈。それが彼女にとって幸せなのである。実の所まだやはりコウは渚は意中に無く、でも傷つけまいと思っている。
「報告書、できました」
「ありがとう、お疲れ様……本当なぜか依頼が立て続けに増えてしまって大変かもしれないけどこの調子でコンスタンスに仕事が入っていけば独立させようかと思っているわ」
「えっ、独立?」
二人同時に声が出てしまった。が、どちらかというと由貴のほうがびっくりしている。コウの方を見ると彼はハイ、と何故か冷静な顔なのである。
「コウ知ってたのか」
「知ってたのも何も……いつまでもここにお世話になるのもな。まぁ喫茶店は来ますけど余裕ができたら渚ちゃんを秘書として雇おうかと思っている」
「渚さんを!!!」
由貴はびっくりして立ち上がって渚を見る。
「ハイ、大学は経済学部を出ていまして……喫茶店でお手伝いしてますけど大学出てから数年間は会計事務もやってました。二年前に職場が休業を強いられたのをきっかけにここで働いていたけど……こんな私でも雇ってもらえると嬉しいですわ」
すると由貴が渚の手をぎゅっと握った。渚は少し引き気味。
「嬉しいです、渚さんはレジの締めの時もすごく早いし普段の喫茶店でも業務も的確丁寧、もしパソコンとか得意だったら編集作業も手伝って欲しいし……ねぇ、コウ!」
だがすぐ渚は手を振り解き、コウは苦笑いしている。
「楽しようとするな。動画もいずれかは誰かもう1人違うクリエイターをと思っているけど俺らと相性の合うやついるか? しばらくは俺ら2人でやって渚ちゃんは事務作業をしてもらうだけだ。それにまだ仕事が順調、そして余裕が出てからと言ってるだろ。冷静になれ、らしくないぞ」
「ごめん、渚さん……手を握っちゃって」
「べ、別に。それに私は2人よりも年下ですし、さんとか丁寧語とかはやめてください……」
渚は顔を真っ赤にした。由貴も顔を真っ赤にしながら席に座った。
「あ。二人ともー」
美帆子がニコッと微笑んだ。何か訳ありな笑顔にしか見えない。コウと由貴はもうわかっている。
「今日の案件、よろしくね」
「……は、はい」
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