第46話
「コウ、どうした」
「由貴、お前こそ」
二人は周りを見渡した。先ほどとは人の入れ替わりはあるかもしれないがその人の中になにかがいる。
普通に幽霊や生き霊は二人にとっては日常茶飯事だがここまで大きく霊気を感じるのは相当強いものしかない。
「どうかされましたか? まさかこの市役所にまだいるのかな……」
洲崎は狼狽える。するとコウは笑った。
「まぁ今更恐れても前の時からこの市役所にはゴロゴロいろんなのいますから……なんなら洲崎さんにも……女性の生き霊が」
「フェッ!!!」
「しかも複数」
コウは洲崎のリアクションが面白く感じ
「肩」
「へぇっ」
「その右腕」
「ひょっ」
「あ、右足……」
「ひゃいっ!」
「コウ、ちゃかすのはそこまでにしとけ。気がどこか移動したぞ」
「すまん……」
由貴に怒られコウは我に帰る。そんな彼の右腕に洲崎がしがみつく。
「あ、あ、あのぉ……私にまとわりついた生き霊はどうすればいいのでしょうか」
「んー、それはまたご依頼ください。前みたいに真津探偵事務所まで。よろしくお願いします」
「いや、その、今すぐ!」
洲崎はもちろんみえないのだが心当たりがあるようだ。
コウはニヤッと笑った。
「……ちょっと多すぎてしかもそれぞれ念、怨念ですかねぇ、強力すぎて軽くこの市役所一階吹き飛びますからね」
「ひぃ」
「一階吹き飛んだらここ全部崩れるから取り壊し費用も少し削減できますよ? ……またご検討してくださいね」
コウたちは洲崎の元から去り、美帆子に紹介を受けた人の元へ行く。
「なぁコウ、洲崎さん相当怯えてたぞ」
「事実伝えただけなんだけどね。前に初めて会ったときに彼自身の除霊かと思ったくらいドス黒い霊気を纏ってたからな。異性関係、汚職らへんかなぁ。そっちが気になっとったから花子さんが霞んでみえたくらいだわ」
「ははっ、でもさっきの霊気は……」
「なんだろうな、悪くは感じないが」
二人が着いた先はこども課。一斉に目線が向く。確かに全身黒尽くめ、色眼鏡、黒グローブはこども課だけでなく市役所にらかなり浮く。いくらネットでは有名であってもこんな異様な姿では二人は針の筵である。
「……あの、何か御用でしょうか」
一人の中年男性が身構えながら対応する。
「えっとぉ、その……」
由貴は目線と気まずさから少し消極的になる。
「真津探偵事務所から来たものですが」
とコウが名詞を差し出す。
「あ、美帆子社長のところの……」
事務所の名前が出たところで周りは安堵していつものように仕事を再開する。
「どんだけ俺ら警戒されてるんだろうな」
「お前の格好だろ」
「お前がこれしろって言ったからだろ」
「……まぁな、いや美帆子さんも」
また二人が小競り合いしてるところだった。
「あの、美帆子……さんから話は聞いてますよ」
メガネをかけた職員が二人の元にやってきた。
「あなたは確か美帆子所長の元お……」
「あ、はい。美帆子さんの元夫の槻山です」
コウが言うよりも先に被されるかのように槻山が言う。
そう、この男・槻山は美帆子所長の元夫である。高校教師を退職し、しばらくは剣道指導員をしていたが、教師の経験を買われて人材不足になったこの市役所のこども課に採用されたのであった。
今回コウたちは槻山の元に行くようにいわれたのだが、もともと真津探偵事務所とも協力関係が昔からある。だから役所の人たちも美帆子のことはわかっているのはそういう理由なのである。
「ではあちらの個室で」
と案内された。
「御二方のご活躍は拝見させていただいております」
元教師ともあって口調がとても優しく丁寧さに由貴はもどかしく、そして緊張を感じる。
「所長から書類を預かっています」
「ありがとうございます。美帆子さんも忙しいんでしょうね。御二方みたいに心霊系のほうにも分野を広げて……すごいものですね」
「本当にその通りです。喫茶のプロデュースもしてますしね……彼女には不景気知らず。僕らもこちらで本格的にお世話になってからとても仕事は絶好調ですよ」
とコウは槻山に合わせて話し方も変える。由貴とは違ってすぐ人に合わせられる。
「なるほど……彼女の進めていきたい事業もこちらでも対応していきたいのですが。先日も色々とあって話し合いも進んでいるんですよ」
美帆子が先日の生き霊退治の件で暴力に悩む女性たちを救いたい、そういう手助けをしたいと言っていたが事務所だけでは難しく、市役所との連携もさらに密に取りたいとのことだった。
「我々も関われることが限られていますし、それを探偵事務所さんたちがやっていただき我々役所が橋渡しになればと」
「僕らがその行き先を失った人たちの最後の砦になれればと思っています」
とコウがいかにも探偵事務所の一員として話す姿を見て由貴は、自分もしっかりしなくてはと思うのであった。
「にしても高校の先生辞めてまさか市役所で、なんて思わなかったですよね」
「教師としての経験が活かせるのではないでしょうか」
すこし槻山の顔が綻んだ。
「……そうかなぁ。僕は他人の子供さんを預かって育ててたけど自分の子供は育ててないからママさんたちの気持ちがわからないんですよね。自分の子育てしてるようでただの居候のような父親も多いですからねえ」
と彼が話している最中、またコウと由貴は何かを感じた。それはだんだん近づいてくる。
ドアがドン! と開いた。
「あ、ごめんなさい……」
小学生の男の子が立っていた。
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