第2話 集団自殺
俺は長い間、自殺志願者だった。四十代後半になり親を亡くして、生きていることに未練がなくなってしまった。それでスマホに入っていたわずかな連絡先と関係を絶つために、スマホを解約した。今どき珍しく家電があるからだ。それに、留守電をつければ困らないだろうと思ったけど、実際は電話を繋いでもいない。宅急便の人だったらポストに何か入っているだろうし、借金なら勤務先に電話がかかってくる。そもそも俺のスマホには二週間に一度くらいしか着信がない。それも、セールスの電話だけだ。だから、支障はない。会社に行けば人と会って普通に話し、談笑もする。仕事は営業だ。コミュ障だけど、粘り強く誠実な人柄が受けたのか、社内で何度も売上一位になっている。支店では永年一位だ。我ながらよくやって来れたと思っている。
プライベートでは未婚だ。俺が稼いでいると思って寄って来る女性もいるけど、噂になるのが嫌ですべて断ってしまった。この年まで童貞なのを知られたくないからだ。風俗は生理的に受け入れないので行ったことがない。
***
こんな俺にも大きな転機が訪れた。昨年の夏、ある少年と出会ったことだ。その子は当時まだ小学校六年生だった。俺たちは、ネットで知り合った自殺志願者たちと一緒に、青木ヶ原樹海に向かっていた。俺もそのメンバーの一人だったのだが、電車の中で彼と隣の席になって、色々話すうちに、なぜこんな子が死にたがっているのだろうと思うようになった。かわいいし、素直で、元気な普通の子だった。
「死ぬのやめれば?」
俺は彼に言った。
「生きててもいいことないし」
「何で?」
俺はかわいそうで泣いてしまった。よくよく話を聞くと、彼はシングルマザーの家庭に生まれたけど、お母さんが亡くなってしまい、叔父さんの家に居候していた。そこで、金食い虫、孤児と呼ばれていじめられて、日常的に家事などをさせられていた。そして、虐待も受けていたそうだ。
俺は悔しくて仕方がないので、電車を降りた時、110番通報して、集団自殺を告発してやった。彼一人を助けるためだった。
結局、集団自殺の首謀者は捕まり、俺たちは解散した。
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