第13話

 私が子供の頃に夢見た憧れのお家で新婚生活が始まりましたが、私とアティカス様の前に黒髪の赤ちゃんが現れました。


 サイラス様とキャスリン様のお子様という事になるそうなんですけど、お二人とも流行り病に罹ってお亡くなりになってしまったので、誰も引き取り手がなくて困ってしまったというのです。


「私は何処かに出かけるなんて事もありませんし!うちで育ててあげましょう!」


 私の言葉にアティカス様ほっとしたような表情を浮かべると、

「乳母もいるし、それほど迷惑をかける事はないと思うんだけどね?」

と言って、乳母のマヤラを紹介してくれました。


 平民のマヤラは成人したお子さんが三人も居るそうなんですが、この度、久しぶりに妊娠し、後わずかで出産という所で事故に遭って流産してしまったというのです。赤ちゃんは流れてしまったのですが、母乳だけは良く出るという事で、赤ちゃんの乳母として雇われる事になったのです。


「両親が相次いで亡くなった事もあって、いまだに名前がついていないんだ」


 アティカス様は甥の頭を優しく撫でながら私の方を見上げると、

「アラベラがこの子の名付け親になってくれないかな?」

と言いました。


 もうすぐ首がすわろうという時期まで名無しできてしまった赤ちゃんが可哀想!ということで私は赤ちゃんにルーカスと名付ける事にしました。

 ルーカス、光を授かる子、まだ赤ちゃんなのに両親を失ってしまった貴方が神から希望の光を授かる子でありますように。


「素晴らしい名前だね」

 アティカス様は私の額にキスをすると、

「俺とアラべラ、二人の間で生まれた子供の遊び相手になったら良いかな〜とも思っているんだ」

と言って、優しい眼差しでルーカスを見つめています。


 私の頬は赤く染まっていたかと思います。

 とにかくアティカス様の所為で朝方まで眠れないんです、だから起きるのも本当に遅くなってしまうのです。

 今の私は到底、社交に精を出すなんてことは出来そうにないのです。

 アティカス様の妻として外に出ることが出来ず、本当に申し訳ないです!

 だけど安心してください!


「私も頑張ってルーカスの子育てをします!そうしたら、事前練習になってアティカス様との間に子供が生まれても困ることがないでしょう?」


 私が胸を張って宣言すると、アティカス様はポッと頬を赤らめています。

 アティカス様!可愛い!

 胸キュンです!



       ◇◇◇



 アラべラの叔父家族が好き勝手しながら暮らしたオルコット邸は現在、整理中、叔父家族は多額の罰金を支払い、平民落ちして追放処分となっている為、空き家となった屋敷は売るべきか、取っておくべきか悩み中。


 アラべラがもう少し落ち着いたら、屋敷についてはどうするか相談しつつ、判断していこうと考えている。


 兄夫婦が亡くなり、母はすでに虫の息。父は死ぬまでもう少し時間がかかりそうだが、家令に始末はつけるように頼んでいる。


 アラベラを無視し続けていたオルコット家の使用人は解雇処分としたが、アビントン侯爵家の方は使える人間もそこそこは居たように思うため、家令と使える人間のみは、希望に沿ってこちらの方へと引き取る予定ではある。


 アビントン侯爵家にしても、キャスリンの実家であるダニング伯爵家にしても、キャスリンの死が表沙汰となって以降、表は到底歩けないというような状況に陥っている。

 美しい病気持ちの悪女として囁かれていたキャスリンではあったが、その死に様があまりにも凄惨であったがために、主要貴族の反感を食う事となったわけだ。


 そうなる前に、俺は籍をオルコット伯爵家へ移していた為、キャスリンとは無関係を貫き通しつつ、ルーカスを引き取っているのでお株が上がっているような状態だ。


 侯爵家の爵位も領地も王家の預かりとなる予定ではあるが、俺の功績やらルーカスの成長によっては爵位の返還なんて事も考えているらしい。

 陛下としては、そうやって恩を売ることで、俺の才能を搾り取るだけ搾り取りたいっていう思惑があるんだろうけど、お互いに利用できるうちは、国内に留まっていてやろうとは思っているよ。


 こうして俺はオルコット伯爵家に婿入りし、本人の気がつかぬうちに、アラベラを籠の中へと閉じ込めた。

 たまに刺繍をして、子供の面倒をみながら、俺に愛を囁いて、安心して暮らしていければそれでいい。社交で嫌な思いをする必要は全くないし、陛下が後ろ盾となっている俺にとやかく言う奴は宰相くらいのものなのだ。


 陛下があの石を利用するのは宰相を排除したいと思った時だろう。

 俺も排除したいと思われたら面倒だから、アラべラに手伝ってもらって、加護と反射の魔石を呪術刻印付きで作ってみても良いかもしれないな。



    ◇◇◇



 アティカス様、1ヶ月もの間、別荘で育てていた甥御さんを連れてきた思惑が、アラベラ様の専属侍女であるコリンナにはお見通しでございますよ?


 甥御さんを引き取る、引き取らないは別として、アラベラ様がどんな反応をとっても良いように、あえて結婚後に連れて来たのですね?


 まあ、子供好きのアラベラ様だったら引き取る一択だったとは思いますが、そうやってルーカス様の面倒をみていたら、社交なんかに出ている暇がなくなりますからね。家でルーカス様を相手に忙しく過ごしているうちに、ご自分たちの子供を仕込んでしまおうとお考えでございましょう?


 本当にアティカス様は、大して知らない人間がアラベラ様に関わる事を嫌悪されますよね?結局、この屋敷も侯爵邸の使用人で取り揃えておりますし、屋敷に入れる平民も、ルーカス様の乳母であるマヤラと私だけじゃないですか。


 アラベラ様が決して傷つく事のない箱庭を貴方様はおつくりになったという事なのでしょうけど、お嬢様が足を切られて監禁されない限りは、これで良しという事に致しましょう。


 アラベラ様の後見人であった叔父一家が平民落ちした事や、侯爵家の惨状の一切をお嬢様に内緒にされていますけど、知らない方が幸せって事も世の中にはあるとはいえ、やり過ぎなんじゃないですかね?


 今後、お二人がどうなっていくのか不安を感じない日はないですけど、アティカス様の愛の重さに気付かないお嬢様なら大丈夫なのでしょうね。


 きっと社交シーズンで夜会に参加するようになったら、貴方は嫉妬と不安で殺意と殺気が物凄いことになってしまうのでしょうが、アラベラ様が『今日は寂しがりやが爆発なのね!』とかなんとか言って、なんとかしてくれる事でしょう。


 そんなお二人の姿を見ながら、このコリンナ、いつでも手に汗を握ってはおりますが、どこまでもお仕えしたく思っておりますので、どうぞ今後とも宜しくお願いしたします。

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ごみ屑令嬢は婚約破棄されたあなたにとらわれる もちづき 裕 @MOCHIYU

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