第5話

 オルコット伯爵家の次女である私、オリビアには冴えない姉が一人いる。

 お父様もお母様も、心底邪魔だと思っているようなグズで、本当に生きている価値もない人だなって思っています。

 お姉様には婚約者が居て、その人と一緒にオルコット家を継ぐ事になってはいるのだけれど、お父様もお母様も、最近ではその考えを変えているみたいなの。


 子供の時から天使のように美しいと謳われた私、オリビアには、婚約者候補として、神が作った奇跡といわれる美しいサイラス様の名前が上がっているのよ。


 サイラス様はお姉様の婚約者であるアティカス様のお兄様、地味な顔立ちの弟とは全く似ていない。美しいサイラス様は私の3歳の年上で、私には子供を相手にするような態度しか見せてくれないのよね。


 成人となりデビュッタントを済ませた私は舞踏会や夜会にも顔を出すようになったのだけれど、サイラス様が私のエスコートをしてくれるのは最初だけ。

 よく分からない女の人といつでも何処かへ消えて行ってしまうのよ。


 サイラス様は美しすぎるお顔をされている方だから、一晩だけの愛を求める方も多いということは後から知ったの。

 だから、私は憐れな令嬢たちへ貸してあげるつもりでサイラス様を送り出していたのよ?

 それに、どこの夜会に行っても私はちやほやされるから、別にサイラス様が居なくても寂しいなんて事はないのよね。


だけど、

「男娼にエスコートされるお前に、アラベラと俺の事をとやかく言われる筋合いはない」

と言われた時には、体が氷漬けになったような気分に陥ったのよ。


 私よりも一年早く社交界にデビューしたお姉様とお姉様の婚約者であるアティカス様は、あまりに地味な見た目の二人だった為、嘲笑の的となっていたわけ。

私も喜んで嘲笑う方へ参加していたんだけど、心の奥底からだっさい認定をしているアティカス様からそんな事を言われた私の気持ちが分かる?


「ああ!男娼ね!確かに男娼にしか見えないよなぁ」


 近くに居た伯爵家の子息がおちゃらけた様子で言い出した。


「顔が良いってだけで、毎回違う女を引っ掛けて歩いているけど、サイラスってああ見えてかなり下手くそらしいじゃないか」

「奴は顔だけの男だからな、技術は二の次といったところなんだろう」

「天は二物を与えないか、確かに世の中はうまいこと出来ているわけだよ」


 周りで言われている言葉がうまくのみこめない。


「やはり別格はアティカスだよな」

「ああ、奴の呪術刻印の技術は、誰もが到底真似ができない最高峰だよ」

「しかも婚約者がアラベラ嬢ときたもんだ」

「加護の呪印持ちだろ?」

「ああ、それでいて清楚で可憐、そこらの淑女のように悪口も言わずに慎ましやかだし」

「天はやっぱり二物も三物も与えるのだな」

「世の中はやっぱり不公平に出来ているらしい」


 私がここに居る事をわかった上でこいつらこんな事を言っているのかしら?

 お姉様が清楚で可憐?悪口も言わず慎ましやか?

 そこらの淑女よりも格上と言い出すその発言の意味が理解できない。


 ダンスフロアーで踊るお姉様はゴミ屑令嬢だし、その相手をして踊っているのも黴令息じゃない。


「まあ!アティカス様とアラベラ様が踊っていらっしゃるわ!」

「お似合いの二人だわ!」

「アティカス様に相応しくあろうとアラベラ様は美容に力を入れて美しくなり、アティカス様はアラベラ様にふさわしくなろうと思い、錬金術師になったというのよね!」

「お互いがお互いのために努力するだなんて何かの小説みたい!」


 嘘よ、嘘よ、嘘よ、いつでも注目されるのは私だったじゃない!

 美の代名詞といえばオリビア・オルコットであって、アラベラお姉様じゃないわ!

 憧れの眼差しを向けられるべき人間は私なの!お姉様じゃないわよ!


「あらやだ、オリビア様がこっちを睨みつけている気がするんだけど・・」

「サイラス様に放置されて暇なんじゃないの?」

「最近のサイラス様ってダニング伯爵令嬢をお相手にされていなかったかしら?」

「性病持ちのキャスリン?」

「そうそう、相手になった男の方が後悔をするという」

「それじゃあ、オリビア様もうつっているのかもしれませんわね!」


 ちょっと!何がうつっているっていうのよ!


「オリビア、向こうで飲み物でも飲んだ方が良いのじゃなくて?」


 私と令嬢たちの不穏な空気を察したのか、ダンスを終えたお姉様が私の方へと声をかけてくる。その後ろで心底、つまらなそうな顔で私の顔を見るアティカス様を見て思わず閃いちゃったわ!


「そうよね、サイラス様が男娼とか病気とか、色々あって問題だというのなら、私が錬金術師である弟の方と結婚すればいいのよ!」


 そうしたら、お姉様とアティカス様がお似合いだ〜なんて言う人は居なくなるし、有名な錬金術師の妻となった私はより一層ちやほやされる事になるのだもの!


 私は早速お父様に願い出たの。お姉様とアティカス様の婚約を破棄して、私がアティカス様と結婚して伯爵家を継げばいいんだって。

 お父様はやっぱり可愛い私が家に残ってくれた方が良いと言い出して、お姉様とアティカス様の婚約を解消にする手続きをどんどん進めていく事になったの。


 サイラス様はキャスリンというアバズレと結婚する事を決めたし、キャスリン様が侯爵家に入るのならば、婚約者候補だった私が弟のアティカス様と結婚する事に何の不満もないのですって。

 あぶれたお姉様は下働きのメイドと共に家を出て行ったけれど、だからってなんだっていうの?

 周りの貴族の視線が若干鋭いような気もするけど、気にする価値もないわね!






 

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