第6話

 息子のサイラスとサイラスの子供を身籠ったキャスリンとの結婚は無事に行われて、後は赤ちゃんが産まれるのを待つばかり。

アティカスはオリビアと結婚してオルコット伯爵家を継ぐことになったのだけれど、アラベラの方がいいとか何とか言っているみたい。本当に、我が息子の事ながら、知った事じゃないって感じでした。


 侯爵家の跡取りになる赤ちゃんが産まれるのだから、色々と準備は大変だし、赤ちゃんのお洋服だってたくさん用意してあげなくちゃいけないのだから、慌ただしいほど忙しくて、そうこうするうちに、キャスリンが出産することになったのよ!


 アビントン侯爵家の妻である私、フランチェスカは、サイラスの妻となったキャスリンの出産を心待ちにしていたの。だって、美しいサイラスとキャスリン、二人の子供であれば美しい子に違いないもの!

 そわそわしながらキャスリンの部屋の前を私が行き来していると、そのうちに、赤子の泣く声が屋敷中に響き渡るように木霊したの。


「まあ!まあ!まあ!無事に生まれたのね!」


 産後は色々と処置があるから、ひと段落するまでヤキモキしながら待っていたのだけれど、ようやく産婆から許可が出たため、サイラスと夫と私の三人で、喜びで勇み足となりながらキャスリンの元まで向かったの。

 産まれたばかりの赤子をぬるま湯できれいにした産婆が、おくるみに包みながら私たちの方へ顔をむけ、

「玉のような男の子だったのですが・・・」

と言ったきり、言葉を詰まらせてしまったの。


 まさか、何かの障害でもあったのかしら?

 産まれた赤ちゃんに身体的に問題でもあったの?

 どんな問題だって私の孫よ!おばあちゃまが守ってあげるわ!


「なっ・・お前・・・」

 産婆が抱いている赤子を見下ろした夫が言葉を詰まらせ、

「う・・嘘だろ・・・」

息子のサイラスが引きつけでも起こしかねない勢いで息を激しく吸い込んでいる。

 そうして赤子を覗き込んだ私は思わず、

「ご・・ご・・ゴキブリじゃない!この子は侯爵家にもたらされたゴキブリよーーー!」

と、悲鳴をあげてしまったの。


 子供の髪の毛は漆黒で、金髪のサイラスからは生まれるわけのない色合いを主張している。

「う・・ううう・・・うわあああああああん」

 キャスリンがヒステリックに泣き出したけれど、そんな事を気にしている場合じゃないわよ!


「醜い!醜い!醜すぎる!私はサイラスとキャスリンの愛の結晶!最高の赤ちゃんを見たかったの!だけどなんでゴキブリを産んでいるの?ねえ?ねえ?どういう事なの?」


「奥方様、申し上げ辛いんですけども」

 産婆はゴニョゴニョと言い出した。


「若奥様はシモの病を患っているようなので、お子様にはなんらかの障害があるかもしれません」

「はあ?なんですって?」

「赤子が生まれ出る日まで奥様のシモは私も拝見致しませんでしたので、今日の今日までわかりませんでしたが、奥様はその・・病気をお持ちのようにございます」


 はあ?


「男性関係が多い女性が罹る病気ですので、薬を処方しても治るかどうか」


 ええ?


「嘘だろ!だから僕も不調だったってわけか!」

 崩れ落ちるサイラスを思わず助け起こすと、

「若旦那様も同じ病気に罹っているでしょうね」

産婆の言葉が頭に到達する前に、

「汚らわしい!触らないでちょうだい!」

叫んで息子を突き飛ばしてしまった私は、絶対に悪くない!悪くないわよ!


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