第22話 12月18日 木曜日 C4

「あっ――ごめんなさいです。斗真先輩」


 ちょっと興奮したからか。過去の事を触れようとした湖奈を俺が止めたところ。

 すると湖奈はちょっとビクッとしたのち。すぐにしょぼんとし、謝ってきた。俺はそんな湖奈の肩に手を置く。


「あれは俺――」

「違います。斗真先輩も悪くな――」


 すると今度は湖奈が強めに――って、俺達は何をしているんだろうな?ゲーム内で、わざわざ過去のことを――すると。止める。話を変えるということはしないだろうが。もう1人もまた会話に入って来た。


「あーあ。変なことになりだしたぞ?イチャイチャ組みが。ついに揉め事か?面白そうだな」

「……」


 もとはと言えば――という奴もなんか言い出した。もちろん俺が反応するより早く湖奈が反応していた。


「船津先輩がおかしな空気にしたんですよ!何で無関係みたいな口ぶり何ですか!」

「おー、怖い怖い。斗真首輪付けろよ」

「はぁ。文も無駄に湖奈を――っか湖奈。落ち着け落ち着け」


 なかなか落ち着かないこの場。いつもの事なのだが――再度俺は湖奈を止める。

 ちなみに前にも言った気がするが。俺と湖奈の今の距離感は前からと思われる。さすがに初め。会った時からではなかったが。家庭教師中から……って、湖奈が馴染んでくれたのには、それこそ楓夕の力もだと思うが。などと俺が思い出していると。湖奈が俺が何か考えてしまっている。または俺の顔に何か出ていたのか――真剣な表情になっており。


「もう!船津先輩、これ以上変な事言い出さないでください。雰囲気が悪くなるじゃないですか!斗真先輩行きましょう」


 湖奈がちょっと強めに口を挟んできた。そして俺の腕をぐいっと掴んできた。


「湖奈。大丈夫だよ」

「でも――斗真先輩辛そうでした。まあ私もちょっと言い過ぎたと言いますか――ごめんなさい」

「いや、湖奈。悪い。俺も顔に何か出てたみたいだし。それに湖奈はいつも通りで助かるよ。ホント」

「——そうですか?じゃあ――私はこのまま行きますね。はい。私が居ます」

「なんだそれ」

「いいんです」

「——湖奈。無理するな」

「——馬鹿な先輩です」

「おい」

「てへっ」

「はぁ」


 とにかく、俺は上手には表情を作れていないらしい。楓夕の事じゃ無ければな。上手にごまかせる気がするんだが。何故か楓夕の事になると。調子が狂うんだよ。

 でも――湖奈の今まで通りの接し方にはかなり助けられているかもしれない。ギクシャクしていたら……だからな。だからあの時からの湖奈の――。

 

 あれ?あの時からの湖奈。わかっている。覚えている感覚はあるが――あれ?なんだろう?この空白みたいな感覚。と、湖奈のちょっと照れたような。からかうような表情を見つつ。俺が違和感を感じていると。何故か得意げ?な顔をした文がまた口を挟んできた。


「まあ馬鹿ップル2人に割り込んだ湖奈は拍手だよ。って、仕向けたオレに拍手。誰か拍手してくれて」

「——ウイ……」

「湖奈。やめろって」

「だって――原因が一番騒いでますよ?さすがに怒りましょうよ」


 ちょっと怒り気味に文を指差しつつ湖奈が言う。


「そうだが――あいつもいろいろあるんだよ」

「——ホント優しいですね――斗真先輩は」


 俺が言うとやっと杖を置く湖奈。


「ちなみに文」

「うん?」

「何度でも言うが。俺と楓夕は付き合ってなかったからな?嘘情報が未だに広がると楓夕に悪いからな」

「まだそれ言うのか!?馬鹿すぎるだろ!?認めろよ」


 俺が正しいことを言うと何故か発狂?に近い声を出す文だった。こいつ何故かこれだけは信じないんだよな。昔から――昔から……?また何か。


「——まあ実際お2人は付き合ってなかったみたいですよ?楓夕先輩も言ってましたし」


 文が騒いで。俺が何か違和感とまた思っていると。湖奈が攻撃態勢――はとらずに話に入って来た。すると文はやれやれと言った表情になり。


「はぁ……まあ湖奈はその方がいいか」

「それもありますがー。楓夕先輩もずっと否定してましたもん。まあ――行為は――ですがね。いろいろ言いたいことはありますが――ね?斗真先輩」

「——えっ?」


 急に俺の方をじーっと見てくる湖奈。あれ?俺の味方。理解者になってくれたと思っていたが――行為?なんだ?俺何かした?おかしいな。俺が反応に困っていると。やれやれのポーズをしながら文が話してきた。


「湖奈。それを付き合っているというんだ。斗真と楓夕は馬鹿だから理解できてないんだ」


 っか、さらっと俺達馬鹿呼ばわりされているが――文よりかは成績いいからな?


「——2人が認めてないから良いんですよ。認めてないんですもん。はい」

「にしても今更だが。マジで狙うとか――湖奈、お前すごいわ。俺が仕組んだが」

「あの――もしもし?文に湖奈?勝手にいろいろ話さないでもらえるかな?誰が来てるかもわからんし」


 俺が2人の会話に口を挟むと、再度呆れつつ文が俺の方を見てつぶやいた。


「高校の時からこの馬鹿2人は――だったからな」

「馬鹿に馬鹿と言われてもな」

「オレは天才だと言ってるだろうが。忘れたか?斗真」

「いや、馬鹿だろ。普通に馬鹿」

「天才なんだよ!試験は100点ばかり。見ただろうが」

「いやいや馬鹿。0点も俺は見た。極端なんだよお前は」

「馬鹿は俺のすごさが理解できないんだな。得意科目以外は気にしなくて良いんだよ必要ないと頭が判断したんだからな」

「——馬鹿だろ」


 馬鹿馬鹿という言葉が繰り返される俺と文。でも――これが俺達。昔からこんな感じだ。やっぱりこういうやり取りが安心するというか。それが馴染んでいるだろうな。俺達は。


 それからしばらく俺達の謎な雑談は続いたのだった。ゲーム内でマジで何をしているんだろうな。でも雑談の場としてゲームを使うのも――ありか。

 ちょっと怪しい雰囲気の時もあったが。結局はちゃんと元通り。いつも通りのたわいもない会話をする俺達だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る