第13話 12月14日 日曜日 C

「斗真先輩。ごめんなさい。遅くなりました」


 2日後。既に俺はゲーム。SCAWの中に居た――のだが。ログインしたばかりだったからか。少し違和感を感じていた。そんな時、同じようにログイン――したはずの湖奈の声が聞こえてきた。


「いや、大丈夫だ。ってか湖奈――?」

「どうしました?斗真先輩」


 不思議そうに湖奈が俺の顔を見てくる。


「いや――あれ?俺って湖奈と一緒に電車に乗ってSCAWセンターまで来たよな?」


 一応だ。多分ログインの関係だと思ったが。俺が確認すると。ワンテンポあってから。


「——はい。来ましたよ?まさか斗真先輩。もう記憶なくしました?おじいちゃんになっちゃったんですか?あっ、私の介護が必要ですか?それはそれで――歓迎ですね。斗真先輩いかがですか?」


 ワンテンポ間があったので、ドキリとしたが。それは全く関係ない事だった。たまにというか。昔はオロオロばかりしていた湖奈だが。今はからかうこともできるようになりと、ホントキャラが変わったとでも言うのか。今は無駄な情報というか。湖奈を楽しませるだけだったらしく。俺はすぐに余計な違和感は頭の中から排除した。


「必要ないない。ちょっとした確認だよ。ちゃんと覚えている」


 ちなみに、違和感と言いつつも。ちゃんと思い出せる。今日の俺は湖奈と電車の中で合流して、そのまま津駅にあるSCAWのセンターまで来た。ちゃんとここまでの事を思い出せるのだが――なんだ?この違和感は?でもやはりログインしたからということにして、俺は湖奈の方を見た。って、湖奈の方はいいネタ見つけた。という顔をしていた。


「——なんだ。斗真先輩がおボケになっちゃったら都合のいい情報だけ話すのにーぶー」

「あのな。湖奈」


 ポン、と俺は湖奈の頭に手を置く。これは文がしたら蹴飛ばされる。多分急所攻撃をされるだろうが。何故か俺は許されている湖奈の行動。暴走を止める方法である。何故か湖奈は前から俺に頭を撫でられる。触られると落ち着くらしく。暴走したらこうしてくださいと自分から言ってきたのだ。


「てへっ」


 にやける湖奈。ちなみにちゃんと暴走は止まったらしい。


「この後輩は。ってか――文は?」


 俺は話題を変えるためにもう1人の参加者を探しながら湖奈に聞くと――。


「ナンパしてましたよ?」

「何やっているんだよあいつ」


湖奈の返事に俺が呆れると――。すぐに俺達の後ろからだった。


「してないからな!?」

「なんだ――居た」


 文の声と、すぐに反応した湖奈だった。って――今週もダメなのか?既に怪しい雰囲気……。


「——今日も2人は仲悪いのかよ」

「オレは何もしていない。ちなみにナンパもしてないからな?ただちょっと綺麗な人が居て話していただけだ。2人が遅かったから。そもそもオレには未羅先輩が居る」

「マジでナンパしてたか……」


 ダメだこりゃだ。こりゃ未羅先輩にそのうち伝えないとな。


「していたみたいですね。私は適当に言ったのに」

「未羅先輩に報告だな」

「私からもします!」

「お前ら!イチャイチャしていたの知ってるからな?見えてたし」

「してないぞ?」

「してないですよ?」

「斗真は湖奈の頭撫でてただろ」

「あれはスキンシップです!」


 はっきり答える湖奈って――あれ?それをイチャイチャ?などと俺が思っていると。


「——楓夕ふゆが泣いてるな」

「船津先輩!」


 文の言葉に反応する湖奈。噛みつきそうな感じがあったが。俺はそっと湖奈を止める。


「大丈夫だよ。湖奈」

「——斗真先輩……」


 心配するような表情の湖奈。文はなるべく今まで通りという感じで接しているが。湖奈は気を使っている。それは俺もわかっていたので、また湖奈の頭に手をポンポンと置きつつ。


「楓夕は笑ってるな」


 ふと過去を思い出しつつつぶやく。


「この馬鹿ップルは今でもか」

「船津先輩!」

「湖奈」

「——はい」


 俺が再度制止すると湖奈は大人しくなった。


「っか、文何度も言うが。俺達は付き合ってなかったからな?」

「「——はぁ……」」

「えっ?」


 そして、何故か正しいことを言ったのだが。文、湖奈ともに呆れ顔となった。


「馬鹿ップルが。ホント変わらないな。お前ら」

「変わらないって――」


 まるで最近楓夕と話したみたいだな。などと俺は一瞬思いつつもそんなことはないはずので、気にしないでいると。湖奈が隣に来た。


「——いろいろ複雑ですが。ってことは――私が隣に居ても問題なしと」


 そして俺の腕を掴んできた。


「波乱だ波乱」


 そんな光景を見ていた文は何故か喜ぶようにそんなことを言っている。


「うるさいです」

「女惹きつけ馬鹿はどこに行っても効果を発揮か」


文が呆れ顔で俺の肩を叩いてきたが――。いやいやである。


「女惹きつけ馬鹿って何だよ」

「そのままだ」

「斗真先輩はそんなことないですよ」

「現に湖奈がホイホイされているだろうが」

「斗真先輩は斗真先輩です」

「——湖奈もなかなか」

「うー、斗真先輩。気にせず行きましょう」

「今日も大変そう」

「基本斗真が大変にしてるな」

「っか。いろいろ言っているが。俺と湖奈を会わせたのは文だからな」

「——そうか?あれ?そうなるのか。過去のオレ、ミスだな」

「そ、そうですよ。船津先輩が――です。だから今の状況はおかしくないです、はい。斗真先輩。続きしましょう」


 少し合流後に無駄話があったが、それから俺達はまたダンジョン入り口のある町へと向かった。


「今日はどうする?」


 歩きながら俺が2人に確認をする。


「まずは……やっぱり今後のモンスター。ボスに向けてレベル上げと。武器強化とかじゃないですか?」

「だな。今のままだと。スライム相手なら――だが」

「他のモンスター出てきたらわかりませんからね」


 ダンジョン入り口の町まで来ると、まず俺と湖奈はそれぞれのステータスが確認できるので、確認をしつつ話し合った。ちなみにまだ文は湖奈の許可が出ないので、パーティ登録してもらえていない。湖奈が頑なに拒否してるからな。ってか。隣で文もステータスを見ていたが――ふと目に付いたものがあった。


「なあ。文」

「うん?」

「お前。レベル上がった?」

「えっ?そうか?この前のままだぞ?」


 文のステータス画面を再度ちらりと見る。前回の最後を見ていないからはっきりは――だが。ちょっと引っかかった。


「レベル――俺達より5以上上だっけ?」


 このゲームSCAWでレベルというのはどういう位置づけなのか俺はまだわかってないが。

 いや、本当はレベルが上がると強くなると思ったが。そうではないらしく。多分何かある。アイテムなどの購入が可能になるなどのレベルなのだと思うが。とにかくレベル。なんか俺と湖奈は同じようにパーティを組んでいるので上がっているが。文が1人でやっているにしても上がり方が――だった。


「あれだろ。裸最強だろ?着実にレベル上がっていたし」


 そういえば文。装備も変わっている。私服――と思っていたが。よく見ると、ステータスのところに装備が載っていたので、今は私服みたいだが――こちらで買って装備したものになったらしい。前回買い物をしたのだろう。

 それにもしかしたら裸スタートは何か補正があってもおかしくないので――文の言い分が正しいか。


「……一理あるか。持たざる者は有利というか」

「でも――変態は嫌です。って、この前船津先輩がどんどん勝手にモンスター狩っていたからじゃないですか?」

「あー、そういや文どんどん狩ってたよな」

「はい。私が狙った獲物も横取りして」


 確かにそんな光景見た。だから文のレベルが高くても何ら不思議なことではなかったようだ。


「あのな。じゃあパーティ登録させてくれたらみんな上がるじゃん」

「拒否です」


 湖奈。即答だった。


「……ホント文何したんだ?」


 呆れつつ俺が聞くと、それと同時に湖奈が俺の腕に掴まり――小声でつぶやいた。


「——私汚されましたから……」

「——?」


 一瞬時間が止まった気がした。

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