第7話 12月12日 金曜日 C6
文と話していると、もう1人友人がやって来た。
「————この先輩たちはせっかく最新のゲームに潜り込んでいるのに……何してるんですか。スタートから動かないんですか?」
ふと、また一瞬だけ俺の頭の中で懐かしさを感じた気がしたが。そんなことより、俺は声の主に返事をした。
「——あー、
声の方を振り向くと、俺と同じくローブを着て雪の結晶をモチーフにしたような杖を持っているプラチナブロンドの髪の小柄な少女。湖奈が呆れ顔で立っていた。
湖奈は俺と文の後輩にあたる。今は――高校3年生だな。俺達とは俺が中3の時に文の父親経由で知り合った。
ちなみに多分今はもう言ってもいいと思うから言っておくが。元ひっきーちゃんだ。いろいろあってな。はじめはこんな感じに外で会うこともなかったが。今では普通に外で会っている。ってか、いつも通りだが。湖奈もキャラメイクはしていないらしく。普段通りの姿なのだが。そもそもプラチナブロンドの髪。ちなみに地毛。が目立っているし。顔のパーツも湖奈は整っており。ほとんどの場合どこに行ってもチラ見をされているとか。なので、普段の姿からして目立っている湖奈。今この瞬間もチラチラと周りのプレイヤーが湖奈を見ている。
あと、もしかするとかわいい子と思いつつ見ている人もいると思うが。湖奈を子ども扱いすると後が怖いので先に言っておこう。いつも文がボコボコにされているからな。ちなみに何故か俺だけはかわいい子扱いをしないと湖奈に拗ねられるんだがな。不思議な子でもある。
そうそう本人曰く『牛乳飲んでも身長も胸もデカくならないのなんで!』らしいので――誰か知っているから湖奈に連絡してやってくれ。
「——斗真先輩」
すると何とも言えない表情で湖奈がつぶやいた。と思ったら、文が会話に入って来た。
「おお、やっと来たか湖奈。遅かったな」
いつも通り軽い感じで文が湖奈に話しかけると。
「ずっと居ましたよ。船津先輩」
あれ?何だろう。ちょっと湖奈の声が――低い。文に対して低い気がした。すると文の方は何もないというか。俺と話すときと同じように返事をしたのだが。
「いやいや居なかっただろ?オレより早く飛――」
「うるさい」
何故か文が話している途中で、湖奈が文の話を断ち切っていた。珍しいというか――後輩に何故か怒られている?文だった。俺の知らないところで文は湖奈に何かしたのだろうか?多分したな。湖奈が明らかに敵意丸出しだし。
「——はい」
さすがに文もなにか感じ取ったのか大人しく返事をしていた。先輩の文。即後輩に負けるだった。
「……?なんか上下関係変わった?」
ボソッと俺が文に聞いてみる。
「——気のせいだ。まあでも言っておくと、今日の湖奈は機嫌が悪いかもしれない。斗真。任せ――」
「うるさいです。船津先輩。シャラップ!」
「……だな」
沸点が高いというのだろうか?今日の湖奈。ちょっと頬が赤い気がするし――気のせいだと思うが。目元も――これは俺が知らないところで文が湖奈に何かした。で確定かもしれない。可能性は高いな。あとで――ちょっと話を聞いてやるか。一応先輩だし――未だに家庭教師継続中だからな。
「早く行きましょうよ。斗真先輩」
すると湖奈が先陣を切って歩き出したので、俺はとりあえず沸点の高い湖奈の横へと向かった。
「どうした?湖奈?文がまたなんかしたか?」
「——しました」
あっさり原因判明。
「だよな。まあそのうち話聞いてやるから」
「——はい。とりあえず――せっかくですから。ゲーム楽しみましょう。斗真先輩」
すると急にいつも通りの笑顔に湖奈が戻った。どうやら――話をあとで聞いてやるというので。良かったらしい。
「だな。って、湖奈はこのゲーム知っていたのか?」
「えっと、ちょっとだけ。開発中ってのは数年前。引きこもっている時にたまたまネットでちょっと。でもこのゲームが完成したと知ったのはまだ最近です」
「にしても、俺だけか。全く知らなかったのは」
「——えっと――斗真先輩話しても――だったんですが。その……
湖奈が言いにくそうに言葉を濁す。これに関しては湖奈は全く悪くない。多分俺が知らず知らずのうちに話すなオーラでも出していたのだろう。悪いことをした。
「ああ、悪い。それは俺が悪いんだよな」
「いえ――そういう事じゃなくて――その、斗真先輩?」
「うん?」
「本当は――これ嫌じゃ……あの時を思い出すと言いますか――楓夕先輩が居ないから……ホントは私。誘うの反対だったんですが」
「いや、ちょうど息抜きにだったし。問題ないよ」
「そうですか?」
「ああ、久しぶりでどんなゲームかはわかってないが。まあ楽しむか。ストレス発散だ。って今は感じだな」
「斗真先輩。ゲームから離れていたのに、身体動くんですか?それにこれボタンとかじゃなくて。自分が動くんですよ?最近の――斗真先輩。忙しそうでしたし」
「——わからん」
ちょっと湖奈から俺を心配する視線があった。確かに最近は大学の事が多くて――で、ゲームは久しぶり。それにそうか。湖奈が今言ったが。このゲーム自分自身が動くんだよな。大丈夫かな?俺。後輩にへっぽこなところを見せそうだ。
「死んだらダメですよ?」
「えっ?」
俺がいろいろ考えていると真剣な眼差しで湖奈が俺を見てきた。ゲームなのに――必死だな。と俺が感じていると。
「だって。このゲーム死んじゃったら初期からやり直しですからね?」
「どういうことだ?初期?」
「昔のゲームって簡単にやり直しが出来たじゃないですか。セーブから始めるって」
「ああ、できたな。何度も死んでコツを―—見たいなのも昔は良くしたな」
「でもこれは死んだらダメなんです。ゲーム内で死んじゃったらすべてを失ってはじめからなんです」
「すべてを失って?」
「クリアするために整えた装備とか。経験値とか。アイテムとか。全部やり直しです。ちなみに船津先輩曰く。課金制度もあるみたいですが。それも全てパーとか」
「——ヤバいな。死ねないじゃん」
もしかして、あれか?そういえば少し前にゲームで死んでもやり直せるから、現実でも人を無作為に殺してみた。という事件があって、いろいろ世論あ揉めていたようなことを俺はちょっと思い出した。現実とゲーム内がわからなくなるというか。そういうのもあって、新しいゲームは命を大切に?というのがあるのだろうか?と俺が思っていると。
「そうですよ。だから――慎重に……私を守ってくださいね?斗真先輩」
ニコニコとしなあらそんなことを言ってくる湖奈――ホント会った時はこんな笑顔なかったのに――懐かしい。って待て、俺の記憶が正しいと。湖奈って昔は他のプレイヤーをなぎ倒すように突っ込んでいくお方だったような……まあ触れない方がいいか。
――うん?ちょっと再度待て、あれ?今懐かしいって思った?何で?湖奈の笑顔なんて――最近はよく見ていた気がするのに。ゲーム内だからか?あれ?
俺がちょっと湖奈と話していると違和感を感じた時。
「おーい。イチャイチャ2人。っか、オレも相手をしてやれとは言ったが。急にイチャイチャするな。あと置いてくなー」
「あっ、忘れてました」
「忘れてたな」
話していた俺と湖奈。完全に文を忘れていた。ふと振り返ると文が俺達にちょうど追いついた。
「元引きこもりの落ちこぼれが。斗真を連れてくなよ。オレが誘っ――」
「うるさいですね。今は学年トップですから!」
普段からこの2人ちょくちょく言い合うのだが。何故に今日はこんなに沸点が湖奈も高いというか。文もあおるなよ。
「斗真。何で馬鹿を指導した?」
「うん?」
俺が2人を見ていると文が俺の肩に、ポンと手を置きつつ言った。
「何でこんな馬鹿を斗真と同じレベルの天才にしちまったんだよー!」
これは文の嘆き?なのだろうか?
ちなみに、ちょっと過去の話をすると、昔。俺達が湖奈と会った時はこいつかなりヤバかった。こいつというのが湖奈だ。湖奈は引きこもりで不登校ということもあってか。勉強に完全に付いていけていなかった。おまけにそもそも勉強が苦手だったらしく一部教科は小学校あたりのレベルからボロボロだった。
ちなみに先ほども少し触れたと思うが。そんなときに、文のとある作戦?というのか。まあ文経由で、俺は湖奈の家庭教師として声をかけられた。
湖奈と接していくと――意外と湖奈は飲み込みが早かった。そもそも湖奈は、できる科目はそこそこ出来ていたから、完全にお馬鹿というか。コツがわからなかったというのか。学校という空間が嫌なだけで、単に授業を受けなかったから、苦手なところはどんどん落ちていったというべきか。
とにかく湖奈は、やってみたら覚えるのも得意ということが判明して――後は何と言うか。俺も調子に乗った。湖奈がどんどん成長していくと言うと変な感じもするが。目に見えて、賢くなるというか。成果が良く分かったので、俺も気分が良く。自分が得意。わかるところは湖奈にどんどん教えて行ったら――湖奈もどんどん覚えて、あらビックリ。
数か月前まで引きこもりだった少女が急に高校2年生レベルまで完璧に――と言うことをした過去がある。
——まあその時俺の隣に居たあるお方からは『さすが。斗真。やり方が酷い』などと言う評価を得たような気もするが。でも、結果は成功したのでいいだろう。
その後も湖奈とは、遊ぶこともあれば、継続で家庭教師。勉強も一緒にしたりということがあり――多分今の湖奈は高校の勉強なんて余裕だろう。自分でも言っていたが学年トップらしいからな。ぶっ飛んでるよ。原因は俺だが――。
そうそう、湖奈は中学までは引きこもりだ。でも高校からはちゃんと登校している。湖奈は高校に行きたいから勉強をと。俺に言っていたしな。
とりあえずそんなことが過去にありましただな。
「ってか、文。湖奈。あれか?入り口は?ってか。ここは明るいな」
文や湖奈といろいろ話しつつ歩いていると、俺達はSCAWセンターから少し歩いたところ。明るい小さな町みたいなところへと到着していた。
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