侵略者の影
地球防衛、始動
鈴沢栞を加え、4人となった地球防衛部。
その記念すべき初回活動が、今まさに始まろうとしていた……!
「じゃあ早速、活動を始めよう!」
元気よく声を出すひなたに、栞は素朴な疑問を口にした。
「それで、部活動は何をするの?」
「もちろん! 地球の平和を――!」
「そうじゃなくって、そのための活動って何をするの?」
「それはもちろん! ……うーん」
「…………」
主要メンバーたるひなたと梓は黙り込んでしまう。
「……もしかして、ノープランなんですか?」
「梓と2人の時は、だいたい部員集めだったから……」
「こうして正式な部活動を始めるのは、今日が始めてなので……」
「目的を見失った、と……」
ひなたと梓は、恥ずかしそうに頷いた。
再び、栞は尋ねる。
「そもそも、この部活って地球防衛部なのよね? いったい何から地球を防衛するの?」
「もちろん! 凶悪な侵略者の手から!」
「その侵略者ってのはどこにいるの?」
「どっかに!」
「…………」
(うわぁ、栞姉が初めて見せる顔だぁ……胃に穴が空きそう……)
殺伐とした空気になりつつある中、梓は起死回生の案を出す。
「こうして正式な部活になったことですし、この部でこれから何をしていくのか……それを最初に決めませんか?」
「はい私から! 地球を守る!」
「ひなた、少し黙ってて」
却下された。
ここで宗介は意見を述べる。
「普通に考えれば、奉仕活動じゃないですか? 地球を防衛してるかは別として、人のためになりそうですし」
「さすが宗ちゃん! ナイスアイデア!」
「それは確かに、部活動としての活動報告にも使えますね」
「い、いやぁ……」
栞と梓に褒められ、宗介は照れ笑いを浮かべる。
「でも、ちょっと地味じゃない?」
「ド派手な活動があるなら言ってみて下さいよ。今すぐに」
ひなたの一言で真顔に戻る宗介であった。
◆
その後はろくな案も出ることなく、結局は校内の美化活動をすることになったのである。
「……ん! これでここは粗方終わりかなぁ」
宗介は担当となった廊下の仕上がりを見て、満足そうに背筋を伸ばした。
(……でもこれ、地球防衛部って言うよりも、掃除部になってる気が……)
他のメンバーはそれぞれ離れたところを掃除しているのだが、果てしなく地球防衛からは程遠い活動となったことで宗介のヤル気メーターはみるみる下がっていたのだった。
……と、そんな宗介の背後に、一つの人影が……。
「…………」
(そもそも、僕は梓先輩と二人で掃除ができると思ったのに、結局一人でゴミ集めてるってどういうことだよ!)
「…………」
(でもまあ、まだまだ二人きりになれるチャンスはあるだろうから、それまでの辛抱ってことで……)
「…………ねえ」
「うぉおおいぃ!! ビックリしたぁ!!」
宗介はビクリと跳び上がる。
「いちいち忙しい人」
そこに立っていたのは、一人の女子だった。身長は低く、半開きの目に無表情の顔。そしてその声にも覇気はない。
「あ、あの……どちら様で?」
「一年の、冴橋響。ヨロシク」
「あーどうもどうも。僕は山田――」
「知ってる。一年の山田宗介。地球防衛部に所属」
彼女の言葉で、宗介は警戒心を露わにした。
「……なぜ僕のことを知ってるんですか?」
「この学校で、あなたのことを知らない人なんていない。何しろ、あなたは――」
「あーはい。もういいです。言わなくていいですから……」
全て察した宗介である。
「それで、冴橋さんはどういったご用件で?」
「あなただけに、大切な話がある」
「僕に……?」
心当たりは、ない。
そして少女との面識もなかった宗介に、一つの可能性が迸った。
(誰もいない廊下で、僕個人への用事って……それって、まさか……!?)
「最初に言っておくけど、愛の告白とかそんなんじゃないから」
「あ、はい……」
現実はかくも厳しいのである。
「じゃあとっとと用件を言ってくださいよ。今日はまだやることがあってですね……」
「それだけど、ちょっと場所を変える」
「へ?」
「ってことで、皆さんよろしく」
彼女の号令と共に、どこからともなく大量のスーツ姿の男が姿を現した。
彼らは宗介の両脇をガッチリと抱え、移動を始める。
「え? ちょ、ちょっとこれ……」
絶賛混乱する宗介に、響なる少女は冷淡に言い捨てる。
「つべこべ言わず、付いて来て」
「いや付いて行ってないから! これ強制連行だから!」
そして宗介は、謎のスーツ男達によって、そのままどこかへと連れ去られたのである。
果たして、宗介の命運や如何に。
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