ミンチ多めのコロッケは美味い





 なんやかんやで地球防衛部に入部した宗介であったが、帰宅後に冷静さを取り戻しつつあった。


「はぁぁ……」


 その日のことを思い返す彼の口からは、どでかい溜め息があふれ出していた。


(あーもう……なんで地球防衛部なんて入ったんだろ。全然そんなつもりなかったのに……)


 下心である。


(まったく、僕も冷静に考えてよ……。あんな集団に入ったら僕まで変人扱いされかねないのに、どういうつもりだよホント……)


 下心である。


 ――ピンポー―ーン。

 ふと、室内にインターホンの音が鳴り響いた。

 宗介が玄関のドアを開けると、そこには、学生服姿の少女が立っていた。


「あ、帰ってたんだ。お帰り、宗ちゃん」


「家の中にいる僕が言われるのも変な話だけど……ただいま、栞姉」


 その少女――鈴沢栞は、さも当然のように宗介宅に上がり台所へ向かう。その手には食材が入ったビニール袋が。


「ちょっと待っててね。すぐに夕ご飯作るから」


「あ、僕も手伝うよ」


「ありがとう。じゃあ、ジャガイモを洗って茹でてくれる?」


 二人は慣れた手つきで料理を作り、テーブルに並べ、食卓に座る。


「うん! 今日もご飯が美味しい! さすが栞姉!」


「ふふふ。宗ちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」


「いつもごめんね。わざわざご飯作るために来てもらっちゃって……」


「気にしないで。私も家で一人だし、ついでみたいなものだから。それに、桜さんからも宗ちゃんのお世話をお願いされているしね」


「母さん……また図々しいお願いを……」


「仕方ないでしょ? 家のことを宗ちゃんに任せてたら部屋中ゴミだらけ、洗濯物だらけになっちゃうし。しかも、ご飯なんてカップラーメンばっかりだし……」


「大丈夫。カップ焼きそばも食べてるから。あれには野菜が入ってるから。あれサラダ枠だから」


「そんなこと言ってる人に食事管理は任せられません」


 宗介と栞は、幼少期からの付き合いとなる。彼女は宗介の一つ年上であり、同じ栄優学園に通っていた。

 母子家庭であり、何かと家に一人でいることの多い宗介。そんな彼の母親の代わりに、こうして、隣に住む栞が世話に来るのであった。

 食事中、栞は切り出した。


「それはそうと……どうだった?」


「ん? 何が?」


「学校」


「!!!!」


 宗介はこれでもかと言わんばかりに激しく動揺する。


「ん? どうしたの?」


「い、いやぁ……なんでもないよ……ハハハ……」


(登校初日から地球防衛部に入部したなんて……言えるわけないよ……)


 それがバレた日には何を言われるかわかったもんじゃないと、宗介は、固く秘密にすることを誓う。

 そんなことなどつゆ知らず、栞は笑顔で宗介に話かける。


「いい学校だから、きっとこれから楽しくなると思うよ。明日からは一緒に登校しようね」


「いやぁ……なんとなく、それってマズイ気が……」


 思春期の心は複雑なのである。


「そんなことありません。私には宗ちゃんをちゃんと育てる義務があるんだからね」


「母親かな?」


「そんなわけないでしょ? 私は、宗ちゃんのお姉ちゃんです」


「まあ昔から栞姉にはお世話になってるけどさ……」


「だからお友達が出来たらちゃんと紹介してよね。変な人達じゃないか確認したいから」


「やっぱり母親じゃん」


 と、ここで栞。


「……あ、そうそう。宗ちゃんに言っとかなくちゃいけないことがあるんだった」


「うん?」


「基本的に宗ちゃんが誰とお友達になるかは自由なんだけどね……」


 そんな前置きをしたうえで、栞は少しだけトーンを落とす。


「……学校の備品室には、あんまり近付かないようにしてね」


「!!!!!」


 今日一番の動揺が心を貫いたが、悟られないようにと可能な限り冷静を装う宗介であった。


「ど、どど……ど、どどど、どうして……かな?」


「ちょっと色んな事情があるんだけど……って、大丈夫? 宗ちゃん、なんか顔が真っ青だよ?」


「大丈夫……大丈夫だから……。うん、平気……。呼吸はできてる……」


「え? 本当に大丈夫?」


「ご、ごめんごめん……。で? 備品室に……何かあるの?」


「う、うん。その……こういうこと言うのってあんまりよくないとは思うんだけど……。ちょっとね、備品室には、変な人達がよくいるの」


「…………」


 めちゃくちゃ心当たりがある宗介である。


「私も直接的には話したことないんだけど……その、悪い意味で有名っていうか、目立ってるっていうか……。色々問題行動があってね?」


「……例えば?」


「突然校内放送をジャックしたり、全校集会中に壇上に上がって騒いだり……まあ、そういう感じの人なんだ」


(……うん、知ってた)


 知っていた宗介である。


「確か……地球防衛部、だったかな? おかしな名前だよね」


「そいつは笑えるネーミングセンスだね! 知っているかヒューストンにも聞いてみようか? HAHAHA!!」


「急にどうしたの?」


 話を戻す栞。


「……とにかく、行動がすごく変でね。そういう人と接すると、どうしても同じような目で見られちゃうからね。変な噂を立てられたりすると、学校生活にも支障が出るだろうし」


「そりゃ……そうだよね……」


「宗ちゃんって流されやすかったりするから心配なの。だから……気を付けてね? 間違っても入部なんてしちゃダメだからね?」


「う、うん……わかった。ありがと、栞姉……」


「いえいえ。……もっとも、地球防衛部なんて名前の部活にわざわざ入る人なんていないだろうけどね。フフフ」


「…………」


 より一層言いにくくなる宗介は、額から嫌な汗がほとばしる。

 この場で言うか、はたまた何とか隠し通すのか……。

 悩みに悩んだ彼は、決断を下した。


「――ミンチ多めのコロッケって、美味しいよね!」


 全部聞かなかったことにした。




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