少年は目覚めた
「とにかく! 僕はまだ地球防衛部に入るなんて一言も言ってませんから!」
「そんなぁ……」
「…………」
意固地となる宗介を、梓は静観していた。
そして……。
「ひなた、悪いんですけど、山田くんと二人で話をさせていただきませんか?」
「!!!!」
宗介の心拍数は気持ち3倍に高鳴る。気持ちだけ。
「う、うん……わかった……」
そしてひなたは、一度部屋を出る。
残されたのは宗介と梓。突然湧いて出た超美人とのマンツーマンに、宗介は絶賛ドギマギしていた。
「え、ええと……どう、したんですか?」
「今日は本当にすみません。何も知らない田中くんを、私達のことに巻き込んでしまって……」
「い、いえ……。僕の方こそ、先輩に変な期待をさせてしまって申し訳ないところもありますし……」
「……ひなた、少し変わっているでしょ?」
「いえ、そんなこと……」
(……ないはずがないか)
それだけは確信している宗介である。
「ひなたは小学校の頃から知っているんですが、あの子、昔からああなんです。だからなかなか友達もできなくて……悪い子じゃないんですけど……」
「……その、悪い人じゃないってのは、わかります。なんとなく……」
「そう言ってくださり、ありがとうございます。入部の件について強制するつもりはありません。ひなたには私から話をしますので、気にしないでくださいね」
「は、はぁ……」
そして梓は、ひなたを再び部屋に入れる。
「ひなた、山田くんを、今日は帰してあげてくれませんか?」
「え? で、でも……やっと入部してくれそうな人を見つけたのに……」
「…………」
何やら居心地悪い雰囲気になりつつあることを、宗介は察する。
「ひなたの気持ちはわかりますけど、入学したばかりの山田くんに無理を言ってはいけないでしょ? 大丈夫ですよ。きっと他にも入部してくれる人はいます。私も、一緒に探しますから」
「梓……」
落ち込むひなたの肩に、梓は優しく手を乗せた。
「だから……ね?」
そして不器用ながらも、ひなたは小さく首を縦に振る。
「……うん。わかった」
彼女の反応を見た梓は、まるで聖母のように優しい微笑みをひなたに送り、宗介の方を向き直す。
「山田くん、今日は見学に来てくれて、ありがとうございました。もしも……もしも、少しでも興味を持ってくれたのなら、ぜひまた遊びに来てくださいね。……ほら、ひなたも」
「う、うん……」
ひなたは、弱々しくも、精いっぱいの笑顔を見せた。
「山田くん……またね」
(帰れるかぁぁぁぁぁ!!)
宗介は心の中で絶叫する。
(いやめちゃくちゃ帰りにくいんですけど! え!? なにこれ!? なんか僕がめちゃくちゃ悪者じゃん! めちゃくちゃ期待裏切ってる感じなってるじゃん! めちゃくちゃ加害者じゃん! どうして!? どうしてこんなに心が痛いんだ!?)
宗介は絶賛良心の呵責に苛まれていた。
……とここで、梓は何かを思い出した。
「……それはそうと、ひなた? 先日勝手に物品を発注しませんでしたか?」
「ふぇ? ……あー、そういえばしてたかも」
ひなたは「バレたか」と言わんばかりに視線を逸らす。
「まったくもう……。先生から連絡がありましたよ? 正式な部活動じゃないのに勝手に発注したらダメじゃないですか。部費だってまだないのに」
「物品が届くまでに新隊員をゲットすればいいかなーって」
「ダメです。正式な部活動として立ち上げたいなら、きっちり予算を考えて計画的に発注してください。仮に部費が下りたとしても、勝手に注文なんてしていたらあっという間になくなってしまいますからね」
「ごめんなさい……」
「仕方ないですね……。先生には私の方から謝っておきますから。……それにしても、
ピクリッと、宗介は僅かに反応を示す。
「ユニフォームにしようと思って! 地球を守るヒーローの衣装は必要でしょ? 梓の分も頼んでたから、
「!!!!!」
宗介は両の眼をカッと見開いた。
「もう勝手なんだから……。とにかく、部費がない以上返品するしかありませんので今回は諦めてください」
「はーい……」
その時、宗介が動く。
「……あの、ちょっといいですか?」
「どうかしましたか?」
「あと1人……あと1人で、正式な部活動として申請できるんですよね?」
「うん、そうなんだけど……」
「もしも正式な部活動になれば部費も出るようになって、活動の幅が
「それはもちろん、そうですね」
「…………」
「……山田くん?」
宗介の中には、既に雑念など消えていた。
もはやそこに迷いはない。
「――……やります。僕、地球防衛部に入部します。入部させてください!」
「えええ!? ほ、本当ッ!?」
「はい本当です! よろしくお願いします! 部ちょ……いや、隊長!」
「やったぁぁぁあああ!! 新入部員だぁぁあああ!!」
ひなたは部屋の中を万歳しながら飛び回り、喜びを爆発させた。
片や梓は、小声で宗介に確認する。
「……あの、いいんですか?」
「はい。自分で決めたことなので」
宗介は、どこまでも真っ直ぐな目をしていた。
「もちろん私も嬉しいですし大歓迎ですけど……どうして急に?」
「……理由なんて、決まってるじゃないですか。それは……」
「それは?」
「――……地球を愛する心、ですよ」
清々しい笑顔で迷わず嘘をつく宗介であった。
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