全ての答えはそこにある






 下心に支配され部室に残ってしまった宗介は、とりあえず、地球防衛部が何たるかを聞いてみることに。


「――地球防衛部はね、地球を守ることを目的として日々活動をしているんだよ! 以上!!」


 ひなたは満面の笑みで説明を終えた。


「いや以上じゃないでしょ。プレゼン下手すぎでしょ」


「だってそれ以上でもそれ以下でもないんだもん。あとは自分の目で確かめるしかないよ」


「そりゃまあそうなんでしょうけど……」


 ここで梓が助け舟を出す。


「ひなた、とりあえずそれぞれ自己紹介をしてみませんか? その方が新隊員さんも話を聞きやすいと思いますし」


「そうそう! そういうところです! さすが先輩です!」


 この時、彼は気づいていなかった。

 美女からも、完全に新隊員扱いされていることに……。


「じゃあ私から!」


 ひなたが率先して立ち上がる。


「私は部ちょ……隊長の、桐島ひなた! よろしく!」


「今思いっきり部長って言いかけて訂正しましたよね」


「2年生で、好きな食べ物はおにぎりとせんべいと、あと、ラーメン! 好きな動物は猫! 好きな色は……!」


「ちょっとちょっと! 自己紹介の質! 小学生じゃないんですから!」


「お互いのことを色々知っていた方がこれから仲良くなれるかなぁって。だから新隊員くんには、私の全部を知ってもらいたいの」


(くっ……! かわいい顔してなんて際どいセリフを……!)


 宗介の下心は存分に刺激された。

 ひなたが椅子に座ると、今度は、梓が立ち上がる。


「次は私ですね」


「!!!!」


 宗介は聴力に全ての意識を集中させた。


「姫野梓です。3年生ですので、一番お姉さんですね。これからよろしくお願いします」


「こちらこそ!!」


「じゃあ次は新隊員くんだね!」


「ですから新入生ですって。まあしますけど……」


 意外とそこのところはしっかりしている宗介である。


「……山田宗介です。今年入学した新入生ですけど、よろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いしますね」


「これから一緒に地球を守ろうね!」


「あれ? なんかもう入部した感じになってません?」


「とにかく、これでようやく本格的な活動をできるね!」


「そうね。部員が3人なら活動の幅が広がるわね」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 怒涛の勢いで話を進めるひなた達に、宗介は待ったをかける。


「うん? 何かな?」


「何かな、じゃないですよ。部員3人ってどういうことですか?」


 ひなたはキョトンとしながら答えた。


「だってそうでしょ? 私に、梓に、あと……山田くん」


「なんでさも当然のように僕を数えているんですか」


「そうでしたね、ごめんなさい。まだ正式に部活動として登録されていませんし、少し気が早かったですね」


「そうじゃないんですけどねぇ! 僕が言っているのはそこじゃないんですけどねぇ!」


 その時、宗介は気付いた。


「……って、うん? 正式に部活動として登録されていないってどういうことですか?」


「あー……ええと、それはね……」


 ひなたは、ばつが悪そうに言葉に詰まる。

 そんな彼女をフォローするように、梓は、少しずつ説明を始めた。


「この学園ではよほどのことがない限り、比較的簡単に部を創設できるんですが……。絶対条件として、部員が3人以上必要なんです」


「去年は私と梓しかいなかったから……正式な部活動として申請できなくて……」


「二人って……他の部員は集まらなかったんですか?」


「……うん」


「とりあえず備品室を使用する許可はいただいたんですが……どうしても部員が集まらず……」


(……なるほど。それで僕が備品室に行くって聞いてあれだけ喜んだんだ……)


 だがしかし、宗介も疑問に思うところがあった。

 対面に座るひなたと梓を見て、宗介は考え込む。


(しかし腑に落ちないな……。確かに地球防衛部なんて見る限りめちゃくちゃ怪しいし発言一つ一つが色々ヤバいけど……。この2人がいる部活動なのに他の生徒……特に、男子すらもいないって不思議。なんでだろ……)


 ビジュアル的に言えば、姫野梓は当然ながら、桐島ひなたも相当な美少女であることは間違いなかった。

 超絶美人に、天真爛漫美少女……そんな二大巨塔を擁する部活動が、これほどまでに人員に恵まれないのは不自然である。


「部員集めも頑張ったんですけどね……」


「チラシを屋上から大量にばらまいたり、授業中に校内放送で宣伝したり、全校集会中に飛び入りで壇上に上がってアピールしたりしたのに……逆に誰も寄り付かなくなっちゃって……なんでだろ……」


「今、すべての答えを口にしましたよ」


 腑に落ちる宗介であった。





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