社交辞令ってご存じですか?
運命の出会いを経て、新たな一歩を踏み出した宗介。
そして彼は……――。
「あの、一ついいですか?」
「うんうん! 何でも聞いてくれたまえ!」
「今この時をもって、地球防衛部を辞めさせていただきます」
――……とりあえず、一歩戻ることにした。
「え、えええ~!? なんで!? どうして!? 理由を述べよ!」
「色々理由はありますが……さしあたって、理由を述べなければわかってくれないことが最大の理由です」
爽やかな笑顔で言い切る宗介。
必死である。
彼は今、この場を立ち去ることに必死なのである。
そんな彼には強く思うことがあった。
(かわいい先輩との部活動なんて、普通なら最高なんだけど……普通なら……)
チラリ……と、横目でひなたを見る宗介。
(……普通だったら良かったんだけどなぁ!!)
魂の咆哮であった。
「え……で、でも、せっかく始まったばかりなのに……?」
「いつの間にか得体の知れない何かが始まっている恐怖が、あなたにわかりますか?」
「も、もちろん続けるかどうかは新隊員くんの自由なんだけどね……。できれば、もう少しだけ続けて欲しいかなぁって……」
「もう少しって……いつまでですか?」
「もちろん、地球の平和が約束されるその日まで!」
「満面の笑みでゴールを放り投げないでください」
「でも、私達はあの日誓ったはずだよね!? 私達の手で地球を守ってみせるって!」
「どの日ですか。思い出をリアルタイムで捏造しないでください」
埒が明かないと、半ば強制的に話を中断するために出入口に向かう宗介。
「とにかく! 僕が備品室に来たのは先生に荷物を運ぶように言われたからであって、間違っても地球なんちゃら部に入るために来たわけじゃ――!」
……とその時、扉が開き、誰かが部屋に入って来た。
「――あら? お客様ですか?」
「ん……?」
声を聞いた瞬間、ひなたは笑顔で声をかける。
「梓! 遅かったね!」
「ごめんなさい、ひなた。委員会で遅れてしまって……」
すっごい美人が現れた。
「…………」
宗介は、鼻先から耳まで茹でタコのように真っ赤にさせてフリーズする。
まさに美……そこに立つ女性は、美としか表せないような凄まじい美しさであった。赤みがかった髪はシルクのように滑らかで、高い身長としなやかな四肢。とりわけその顔や雰囲気は別次元の存在であり、彼女がただそこにいるだけで、その空間だけ絵画となってしまうほど。色褪せた壁も、痛みが酷い机も、まるで彼女を引き立てるために存在するかのように、全てが、彼女中心に見えてしまうかのように……。
それはもはや偶像であった。
現実感など消失してしまうほどの美人が、宗介の前に忽然と姿を現した。
当然ながら、これほどまでの美人など見たことがない宗介のキャパは瞬で爆発する。言葉を発することも指一つ動かすこともできず、ただただ目を奪われていた。
「ええと……ひなた? そちらの方は……?」
「期待の新隊員くんだよ!」
「誰が新隊員ですか誰が」
辛うじて我に返る宗介であった。
二人のやり取りを見て、梓と呼ばれる美人は何かを察する。
「もう、ひなたったら……。また強引に連れてきたんじゃないんですか?」
「まさか! 新隊員くん自らここに来たんだよ!」
「微妙に真実を織り交ぜないでください。ややこしくなるんで」
梓は、宗介の全身を見てみる。
「……その校章を見る限り、新入生の方ですか? ひなたが迷惑をかけてしまったようでごめんなさい。この子も悪気があるわけじゃないんですけど……」
(悪意のない純粋さって時に悪意を超えるよね……)
……と、心の中だけで呟く宗介である。
「無理に引き留めてしまったのなら私が代わりに謝ります。ごめんなさい、時間を取らせてしまって……」
「い、いえ……そんなことは……」
「ないの!? だったら一緒に地球を守ろう!」
「社交辞令ってご存じですか?」
宗介は一刀両断で切り伏せる。
「さっきも言っての通り、僕は地球防衛部に所属した覚えは一切ありません。ですので、今日は……――」
その時、宗介は梓なる美人と目が合ってしまった。
「…………」
吸い込まれるような切れ長の瞳で宗介を見つめる美人。
くらりと、宗介は眩暈を起こす。
(……いや見るな宗介。見るからに怪しい集団じゃないか。これから青春の日々が始まるんだ。こんな怪しい団体に所属したんじゃお先真っ暗だ。理性を保て。下心に負けるな。鋼の心を身に纏うんだ……!)
「……あ、あの……どうかされましたか?」
心配そうに声をかける梓。
その声もまた美しい――。
「――……今日は、とりあえず部の活動について話だけ聞いてみようかと」
「――ッ!! う、うん!! 座って座って!!」
嬉々としてパイプ椅子を差し出すひなたであった。
……後に、宗介はこの時のことをこう語る。
「気が付けば、口が動いていた」と……。
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