第77話 暴かれた過去~そして~ 4
エルンストは以前ゲオルグから聞いた話を思い出していた。
そうだ確か、陛下は大陸一美しいと言われたシュタインベルグの姫に求婚し、断られていたことがあった。
それがフィーアだと言うのか!?
「ところでお父上は息災かな?」
「風の噂で私が奴隷になったことをご存じならば、父がどうなったかもご存じのはず」
「ははは、そうであったな。そなたの父は死んだのであったな。フォーゲルザンクの兵によって殺されたのだったな」
どこまでも嫌な男だ。エルンストは思う。
シュタインベルグとフォーゲルザンクは国境を接している。両国は同盟を結び互いの国境を侵すことなく平和だったはずだ。
それが数か月前、突然フォーゲルザンクがシュタインベルグに攻め入ったのだ。
虚を突かれたシュタインベルグの国王、王妃はその場で殺され、王女だけ行方不明とされていた。
この件に関しては、エルンストも部下から報告を受けて知っていた。
その王女が今、目の前にいる。
「そなたの父上は領民にとっては良い王であったが、いささか人が良すぎたのではないか?いくら平和条約を結んでいても、まだ戦乱の世が完全に終わってはいなのに、油断したな」
カラカラと笑うゲオルグをフィーアは鋭い瞳で見つめていた。
「父は油断などしていませんでした。けれど、フォーゲルザンクはこのカールリンゲンと並ぶほどの大国。虚を突かれてはどうしようも無かった。まさかフォーゲルザンクが裏切るなんて」
大陸がまだ戦乱の世であった頃。
カールリンゲン帝国はシュタインベルグを除く、フォーゲルザンク王国、ブラウンシュバイク公国と戦闘状態にあった。
そして小国シュタインベルグは中立状態にあった。
最初にブラウンシュバイクとの戦闘に勝利し、その勢いでフォーゲルザンクにも勝利したのだった。
ブラウンシュバイクに関しては自治を認め、現在も大公が治めている。だがフォーゲルザンクはそうではなかった。この戦でゲオルグは弟を亡くし、その遺恨からフォーゲルザンクの王政を認めず、全権を手元に置いたのだった。
カールリンゲンの属国であるフォーゲルザンクがどうしてシュタインベルグに攻め入ったのか、エルンストは不思議だった。
何故ならば属国である以上、自由に兵を動かせないからだ。
まさか――。
陛下の指示で、シュタインベルグに攻め込んだのか!?
あり得ないことではない。いやそれしか考えられない。
つまり、フィーアに求婚を断られ、その報復として――。
エルンストは唖然とするしか無かった。
国をあずかる人間のすることではない。
自らの手を汚さず、相手を倒す。戦略として優れているが、その動機はあまりにも幼稚すぎる。
フィーアは奴隷となり知りえないだろうが、その後のシュタインベルグは俺が統治を預かっている。辺境の視察もそのためだった。
何という運命の巡り合わせなのだ。
しかし、国を滅ぼした原因が自分にあったなどと知ったら。
それこそフィーアは生きてはいまい。
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