第75話 暴かれた過去~そして~ 2
「大変お待たせ致しました、陛下」
一礼してゲオルグの前へ出る。
「休みの所、すまぬな」
ゲオルグはソファーに腰かけ、その横にはファーレンハイトが直立不動の姿勢で控えていた。
何があったのだ。普段冷静なエルンストの心臓が珍しく高鳴る。
「さっそくだが、お前の所にはそれはそれは美しい侍女がいると、兵士たちの噂でな。忍びで会いに来たのだ」
口から心臓が飛び出るほどエルンストは驚いた。
ゾフィーの元に通わせたのが仇になったのか?
エルンストは内心焦った。しかし、落ち着かなければ。
戦場でもそうだが慌てていては、妙案は浮かばない。
「当家にそのような侍女がおりますかどうか」
はぐらかしにかかる。
ゲオルグの横で控えているファーレンハイトも眉間にしわを寄せている。おそらく、内心で焦っているのだろう。
「すぐにその侍女をここへ呼べ。ハニーブラウンの髪に、グレーの瞳――」
間違いなフィーアだ。
女好きのゲオルグのことだ。まさかフィーアを側室にするとでも言い出す気なのか。
「どうしたのだ、早く呼べ」
「お探しの侍女は、先ほど買い物に出かけた様子。大変申し訳ございません」
ゲオルグの口元が歪んだ気がした。
「何を言っている。さっきそこの庭に居たではないか」
エルンストの背筋が凍った。
フィーアを知っていてわざと言っているのだ。誤魔化せないと悟ると、コンラートにフィーアを呼びに行せたのだった。
姿を現したフィーアはゲオルグと視線を合わせるのを避けているようだった。伏し目がちにエルンストの横に並んだ。
後方に控えているコンラートは緊張のあまり震えているように見える。
ここでフィーアが奴隷と知れたら、べーゼンドルフ家の爵位はく奪、領地没収。領民には迷惑をかけるが仕方ない。俺はフィーアを選んだのだから。
「娘、名は何と言う?」
「フィーア・フォン・モーデルにございます、陛下」
フィーアは深く頭を下げた。
「ほー、そうであったか?」
口元を歪めておもむろに立ち上がると。ゲオルグはフィーアの顎をつかんで強引に上を向かせた。
フィーアはとっさに視線をそらしたが、ゲオルグはそれを許さなかった。
顎をつかんだまま、フィーアに顔をよせる。
「余はてっきり、フィーア・フォン・シュタインベルグだと思っていたぞ」
時間が止まった。
その場にいた誰もが、我が耳を疑った。
張り詰めた空気が室内を支配していた。
フィーア・フォン・シュタインベルグ――だと!?
エルンストはフィーアから視線が離せなかった。
沈黙を破って声を上げたのは、コンラートだった。
「フィーア、まさかっ!?」
ふらふらとよろめくと、近くにあったマントルピースに手をついて、危うく転倒を免れたほどだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます