第2話 悲劇のヒロイン


 次の日。


 あの後美容室に行き髪の毛を切って、スッキリした視界の中登校をした。


 意外な事に失恋した後に髪を切ると言うのはそれなりに効果があるみたいだ。

 足取りは思ったよりも軽やかで、教室のドアに掛ける手もそれ程重くはない。


 そして僕は教室のドアを開けると共にクラス中の生暖かい視線で歓迎をされる事となる。


 え……なにこの雰囲気……


 僕がドアの前から動けず立ち尽くしていると、クラスの中でも1,2を争うカーストに位置する女子グループが近付いて来た。


「伏見君!!大丈夫ー!?」

「あんた何て可哀想な男なんだ……」

「良く学校来れたね……偉い、偉いよ!!」

「は、はぁ……」


 僕を取り囲んでいるのは天野とは敵対しているグループの筈だ。

 付き合っていた頃、よく彼女らの悪口を聞かされたものだが……


「失恋したてで辛いだろうけど、うちら伏見君の味方だからね!!天野ちゃんとかに何かされたら言いなよ!!」

「てかあんた天野と付き合ってたんだ。ま、伏見、女欲しかったらいつでも紹介してやっから!」

「そ、それはどうも……」

「ちょ、今はそんな気分じゃないでしょー!蘭子ぉ今は女の子の紹介とか傷つけるだけだって!」

「あ、そっかごめん伏見」

「いや……その、ご親切にどうも……?」


 僕がそう言うと満足したのか、彼女らは手を振りながら自分達の席へと帰って行った。


 何か『てか伏見君てあんなイケメンだったっけ?』『あたし狙ってみようかなぁ……』『蘭子弱味につけいるとかサイテー』などと話しながら。


 ……なんだ今の。


 クラス中の暖かい目も変わらないし……

 

 それにしたって噂が広まるのが早いこって。

 天野が友達にでも言いふらしたんだろうが。 

 自分で僕らの事は内緒だと言ったのに。


 まぁ良いか。別に僕にダメージはない。

 むしろクラスの女子とほぼ初めてレベルでまともに喋れたから役得だろう。


 僕は自分の席へ向かい、周りの空気に困惑しながらも椅子に座った。


 するとその瞬間、暖かかった雰囲気がピシッと変わる。


「朝練の晃史君めっちゃカッコ良かったよね!!」

「だねー。てか聖、毎日それ言ってるw」

「良いじゃん本当の事だし──ん?」

「?」


 天野が自分の友達と駄弁りながら教室へとやって来たのだ。

 彼女らもその異様な空気を察知したのか、僕と同じようにドアの前で立ち止まっている。


「なにこの空気。あたしら何かした?」

「さぁ?知んないけどほっとけば?」

「そだねーw」


 そして自分達の席へと移動を始めた時だった。


「ねぇ天野、伏見に何か言うことあるでしょ?」

「は?」


 先ほど僕に声を掛けて来た三人の内の姉御肌の金田かねだ蘭子らんこさんが天野を睨んでいる。


「あんたあんな事しといて良く平気な顔してられるよな」

「あーーー……なに伏見チクった感じ……?」


 げっ、天野が僕の事めっちゃ睨んでる!

 

 ん?と言うかおかしくないか……?

 天野が誰かに昨日の事を言いふらして噂が広まった訳じゃないのか……?


 僕は当然誰にも、いやあいつ以外には──


「まさか……!!」


 僕が嫌な予感に見舞われたまさにその時、最後のクラスメイトがいつもの様にチャイムギリギリで教室にやって来た。


伊井野いいの!!」

「ん?伏見君?おはよ──」

「ちょっと来てくれ!」

「わっ!」


 僕は気だるそうな顔をした彼女──伊井野いいの瑠衣るいの腕を掴んで教室を出ようとした。

 だが天野がそれを止めようと怒声を向ける。


「あ、ちょ伏見!!あんたどういう事なのこれ!!」

「悪いが後にしてくれ!!」

「はぁ!?な、なんなの……!」


 そして今度こそ僕は伊井野と一緒に教室を出た。

 クラスの異様な雰囲気を残したまま──

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