第11話

俺は二つ返事で契約を受けた。

デルさんの真意は分からないが、悪い人じゃなさそうだし、俺に物凄く害のあることはしないだろう。


契約を終えて、外に出た。

その瞬間緊張感が抜け、自然とため息が出た。


「はぁぁ。疲れた。」


元々俺は他人に気を使うのは得意じゃない。

リン家は魔術を使って地位を築いた一族なので、そういう面倒なことはせずに全て力で解決するという家風だったためそういうことについて学んでいないのだ。


こんな時はメイラと戯れたい。

メイラとは同じ空間にいるだけで癒される。

よし!! そうと決まればさっさと家に帰るぞ!!


そう思い、家に帰ろうとしているとなにやら叫び声が聞こえてきた。


「リィエェルゥ!!」

「うおっ!!」


受付嬢だ。

受付嬢が鬼のような形相でこちらに向かってきていた。


「お前のせいで私の人生は滅茶苦茶なのよ!!」

「そ、そうか。」


ビックリしすぎてそっけない返事しか出来なかったが、はっきり言ってこいつが言ってることはおかしい。

俺のせいじゃなくて自分のせいだ。

ギルドを追放されたきっかけは俺だが、原因はこいつかがこれまでにも悪事を重ねてきたからだ。

何があったかは分からないが、きっとろくでもないことをしたのだろう。

逆恨みにも程がある。


「あんたさえいなければ!! 私は幸せな生活を手に入れられたのに!!」

「はぁ。」


さっさと癒されたいのにいやなやつにあっちまったな。

俺は幸せは誰にでも手に入れられるとは思っている。

それが他人を見下している奴だろうが、性格の悪い奴だろうがだ。

しかし、他人の幸せを奪った奴はだめだ。

俺は奪われてはいないが、奪われた奴もいたはずだ。

そうでもなかったらあんなにすぐに俺を逮捕するなどと言えなかったはずだからだ。


俺はめんどくさいが口を開いた。


「おいおい。逆恨みは止めてくれよ。お前の自業自得だろ?」

「違う違う違う違う!!」


はぁ、もうだめか。

説得は難しいようだ。

なので、俺は逃げる準備を始めた。


「まて!! ここがどこだかわかってる!?」

「......ギルド前だけど。」

「ここで私が叫んだらどうなると思う?」

「!?」


それはまずい。

この受付嬢は黙っていればかなりの美貌をもっている。

まぁ、メイラには全くかなっていないがな。

それにくらべて俺は「外れスキル持ち」というレッテルが張られている。

なので、この状況で叫ばれては俺がこいつを襲ったみたいになるのだ。

どうしたものか......。


「私はお前のことを許さない!!」

「はぁ。だから?」

「まずは私がやった悪事を晴らすことに協力しろ!! そして私を受付嬢に戻せ!!」


うっわ。こいつは救い用のない屑だな。

一瞬頭の中で「殺す」と言う発想が出てしまったが、理性で押し込んだ。


「分かった。」

「そうかそうか。お前もここで捕まりたくはないわね? ならこの契約書にサインを......。」

「断る!!」


そういって俺は人間メテオを使った。

上空に転移する。

さて、俺はなぜこれを使ったかと言うと、逃げるためだ!!

このスキルではかなり上空に転移するため、すぐには見つからないだろう。

それに、俺は「落下者」のお陰でかなりコントロールが出来るため、出来るだけ落下速度を遅くし、地面などへのダメージを減らしながら遠くへと行くことが出来る。

さて、帰るか。



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俺は家に帰ってきてから気が付いた。


やべぇ。白狼の素材を売るの忘れてたと。


今俺の財布の中はすっからかんなため、食べ物が買えない。


「あのー。すみませんメイラさん。」

「んー。どうしたの? そんなにかしこまって。」

「実はですね。ご飯を食べるためのお金がなくて......。」

「はぁ!?」


俺は事情を説明した。


「はははっ!! なにそれ!! ざまぁってやつだね!!」

「はぁ。笑い事じゃないんだよ。」

「そうだね。まぁ、今日くらいは僕がおごってあげましょう!!」

「ありがたきしあわせぇ。」


本日はメイラにゴチになることとなった。



朝起きて、俺は今日だけは休むことにした。

家でだらだらするのだ。

朝御飯はなんとか残り物ですませ、すぐさまベットに転がった。


「ふぉーっ。さいこー。」


みんなが汗水垂らして働いている時に俺だけだらけているというこの優越感!! 最高だ!!


「いやぁー。人が働いてる時にだらけられるのを見せられるこっちの身にもなって欲しいなぁー。」


メイラが部屋に入ってきた。

お客さんが来てないのだろうか、ちょっと拗ねた感じで俺に嫌みを言ってきた。

この感じは......暇なんだな。


「ごめんごめん。ちょっと疲れたから今日は思いっきり休もうかなーってね。」

「ふふっ。まぁ、リエルが頑張ってたのは僕も知ってるし怒ってないよ。今日はゆっくり休みな。」

「ありがとう。」


メイラに許可も取ったし、思う存分休むぞー!


ゴロゴロー


ひたすらにだらける。


ゴロゴロー


メイラが接客をしている音が聞こえる。

が、それでもだらける。


ゴロゴロー


うん。ちょっと筋トレがしたくなってきたかも。

身体作りはしっかりしなきゃっ......って今日はだらけるんだった。

なので、だらけ続ける。


ゴロゴロー


あ!! そ、そうだー。白狼の素材を売るの忘れてたんだったー(棒)

よーし。売りに行かなくてはー。


俺は立ち上がり、出掛けることにした。


「メイラっ!! 用事を思い出したからちょっと行ってくるよ!!」

「あら、お早いお目覚めで。やっぱり続かなかったのね。」

「な、なんのことかなー。」


メイラがジトッとした目で見てきた。

ちがうもん!! 用事だもん!!


「はぁ。今日は休むんでしょ? 僕が売ってきてあげようか?」

「いや!! 俺が行くよ!!」

「はぁ。いつもより声が生き生きとしてる......本当に社畜だね......。」


ちがうもん!! 社畜じゃないもん!!


「と も か く !! いってきます!!」

「はぁ。いってらっしゃい。」


そう誤魔化し、俺はギルドへと向かった。

ちなみに、ベットに入ってから三十分後の出来事であった。



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「ちょ、ちょっと待っててください!!」


俺は新しい受付嬢に呼び止められた。

白狼を出した瞬間こうなった。

今回の受付嬢は新人らしく、茶髪のロングヘアーで可愛らしい容姿をしていた。

前の受付嬢とは違い、礼儀正しくてとても好感がもてる。


少し待っていると、奥の部屋から誰かが出てきた。


「やぁ。また君か。」


デルさんだ。


「白狼を狩ったんだって?」

「はい。森に不自然な空間があったので、そこを探索していたら出会ってしまい、倒しました。」

「そうかい。それは......まさか精霊の巣付近の森かい?」

「ええ。」


あのときは本当に死にかけた。

今でもあのときは運が良かったと思える。


「それはそれは......。」


デルさんは考え込んでしまった。

なにか問題でもあるのだろうか。


「白狼は問題なく売れるんですよね?」

「あぁ。そこは安心してくれ。あと君を銀級にしよう。」

「!? ありがとうございます!!」

「うーん。じゃあこれをあげよう。」


そういってデルさんは小さな鉄の板のようなものを渡してきた。


「なんですか? これ。」

「これはステータスボードだ。これを使えば力などが分かるだろ?」

「えっ!? そんな貴重なものを貰っても良いんですか!?」


絶対裏があると思ってしまう。

デルさんは善人だけど、偽善者じゃない。

取るところは取ってくる人だ。


「言っただろ? 出世払いだよ。」

「......分かりました。何倍にもして返せるように頑張ります!!」


そうして、思わぬ収穫を得た俺は上機嫌で家に帰ることにした。

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