第9話

俺は魔法を構築する。

俺はあることに気付いた。


魔法の同時展開の仕方だ。


多分この桃色の力のお陰で気付けたのだと思う。

魔法を扇風機だと考えると、普通の魔法は一つのコンセントにつき、扇風機が一つついているようなものだ。

しかし、それで同時展開をしようとすると、コンセントが足りなくなり、結局どちらの魔法も発動しなかったり、暴走したりしてしまう。

なので、同時展開は出来ないとされている。

しかし、俺は桃色の力で、蛸足配線のようなものが出きるようになった。

なので、コンセントが足りなくなることがないようだ。


俺は自分で考えた魔法名を唱える。

魔法は唱える必要などないのだが、まぁ、気分の問題だ。


「吹き荒れろ。『空気圧縮エアプレス。」


ん? ネーミングセンスがないだって? 知らん。さっきも言っただろう? 気分の問題だって。

この魔法は相手の全方位から風を吹かせ、相手の動きを止める魔法だ。

俺の作戦では、これが必要不可欠なのだ。


ダッ!!


俺は急いで走り出した。

剣を構え、狙いを定める。

狙うは白狼の足だ。

足を傷付けてしまえば動きが更に止まり、あの技の成功率が上がる。


ビュゥゥゥ


俺は風のなかに入った。

物凄い風圧だ。

俺はその風にのって、剣を振る。


よし。ヒットた。

剣は白狼の足に当たり、傷をつけた。


「きゃうん!!」


白狼が悲痛な叫び声をあげる。


「すまないな。俺は何としてでも生き残らなきゃならないんだ。」


俺は人間メテオを使った。


上空にそのまま転移する。

これは半分賭けだ。

これで倒せるかどうかもわからない。

俺は空気圧縮エアプレスで魔力を全て使い果たしてしまい、もう同じ戦法は使えない。

だから、これで倒せなかったら、勝率がぐんと下がるのだ。


怖い


ここで死ぬかもしれない。

いや、俺が死ぬのが怖いんじゃない。

メイラの幸せを奪ってしまうのが怖いんだ。


「ははっ。」


俺は笑った。空元気だ。

恐怖で制御が出来なくなれば、それこそ最悪だ。

怖いなんて言ってられない。

成功させるしかないんだ。


ウルフが近付いていく。


よし!! 完璧な位置だ!!


俺は丁度白狼の真上に落ちていた。

このまま落ちていくと、倒せる筈だ。


ビュゥゥゥ


落ちていく。

下へ下へと。


当たる!! と思った瞬間、白狼が叫んだ。


「わおぉぉぉぉん!!」

「!?」


ガクンと落下速度が落ちた。

まさかスキルか!?

魔物やモンスターは基本的にスキルを持たない。

しかし、稀に上位種などにスキルを持つものがいる。

白狼は上位種に入る。

いままでスキルを使っていなかったため、油断したが、多分一回位しか使えない貴重なスキルだったんだろう。

それのせいで、威力がかなり落ちてしまった。

しかし、ダメージは食らってしまった。


冷たい汗が流れる。

勝率がぐんと下がった。

魔法の効果も切れ、白狼はもう動ける状態だ。

次に人間メテオを使って落ちたら、もう俺は瀕死だ。


しょうがない。


俺はもはや悪足掻きとしか言いようがないような作戦に出た。

少しでも生き残れる確率があるならそれを試すしかない。


奇跡が起こることを願おう


俺はまた人間メテオを使った。

上空に転移する。

俺は剣を構え......。

投げた。


空から落ちるダメージと、俺の力が合わさり、物凄いダメージが出る筈だ。

しかし、白狼が上を向いてしまった。


「ぐるっ!?」


何かが落ちてきていることに気付き、よろよろとした足取りで、軌道上から避けてしまった。





終わった。





俺の人生もここまでか。

この短期間で何回も思ったことだ。

しかし、これ程までにもうダメと言うことはなかった。

少しの希望はあったのだ。しかし、今回は少しの希望も見出だせない。


メイラ......。

俺はこの力を使ってなおお前に幸せを届けることが出来なかった。

すまない......。


俺は心のそこからそう思った。


メイラの幸せはこの世界のなにとも変えようのないものだ。

メイラの幸せを奪ったのは俺なんだ。

深い後悔の念を俺は捧げた。




ビュゥゥゥッ!!



風だ!! 風向きが変わった!!

剣の軌道が変わる。

そして......。



グサッ



白狼に刺さった。


奇跡が起きた?

何にせよこれはチャンスだ!!

俺はもう諦めかけていた体を叩き起こした。

自分の体を使って、微調整をしていく。

体の疲れが急激に感じられなくなっていく。

いまの俺は無敵だ!! そう思わせるほどに。


ビュゥゥゥ


落ちていく。

勝てる。勝率が上がった。

剣は白狼を貫通し地面に刺さっていて、白狼の動きを止めていた。


俺はそのまま落ちていく。

そして、白狼を潰した。


ーレベルが上がりましたー

ーレベルが上がりましたー

ーレベルが上がりましたー


レベルアップの通知が聞こえる。

と言うことは......


「勝ったのか?」


奇跡に奇跡が重なった、俺の大勝利だった。

俺はその場にへなへなっと座り込んだ。


「俺が......倒した? 白狼を?」


にわかに信じられない話だ。

白狼と言えば、こいつを倒せたら上級者と言われる魔物だ。


「よっしゃぁぁぁぁ!!」


俺は叫んだ。

遂にやったのか。あの受付嬢だって、俺の家族だって、そしてサエルだって俺のことを見返すだろう。

そして、これほどの力があればメイラを幸せにしてやることが出来る!!


その時、俺はあることに気付いた。


「やばい!! もうすぐ存在値を測る時間だ!!」


俺は大急ぎでギルドに走り出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《受付嬢side》


受付嬢ことカルルは、スキル絶対主義者だ。この世の人間の価値はすべてスキルによって決まると思っている。


(はぁ。何で私があんな外れスキルの対応をしなきゃいけないのよ。)


カルルはそう思い、少し顔をしかめた。

しかし、職務中だったのでいつも通りの営業スマイルに顔を戻した。

カルルが受付嬢になった理由は単純だ。

玉の輿に乗りたいのだ。

冒険者には沢山のスキルを持つ。

そんな価値のある人たちと関係を持ち、裕福になるのだ。


(あんな価値のない外れスキルの対応をしてる暇があったらもっと有能な人達の対応をしたいのよ!!)


もっともっと将来性のある冒険者の対応ができたら、玉の輿に乗る可能性が高くなるかもしれない。

そのためには無能たちを切り捨てなくてはいけない。

実際カルルはいままでに何人もの外れスキルを持つ冒険者を騙し、追放したり堕落させたりした。

今回のリエルもそのうちの一人だ。

最も、奴は外れスキルの癖に、盗んだのか金で買ったのか分からないが、大量のウルフを売りに来た。

その事を出汁にして、リエルを逮捕させようとカルルは思っていた。

ギルドマスターが物凄く優しいため、ウルフよりも強いことが証明されれば逮捕はされないことになっているらしいが、外れスキル持ちがウルフよりも強い筈がない。


さぁ、あと残り時間は十五分だ。

まさか怖じ気付いて来ないんじゃないでしょうか?

そうしたらそうしたで自分がウルフよりも弱いと言うことを自白してるみたいなものなので、即逮捕状が出されすぐに捕まるだろう。

カルルはこのまま来ないでくれと願いながら時間を潰すのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ、はぁ。」


俺はなんとかギルドについた。

猛ダッシュしてきたため、息が荒い。

しかし、ゆっくり休んでいる暇もないので、少し息を整えてからギルドに入った。


「すいません。存在値を計りに来ました。まだ間に合いますか?」

「チッ。」


えっ。こいついま舌打ちしなかったか?

やっぱりこいつは一回殴ったほうがいいのか? それとも一回だけとは言わず二三回殴ったほうがいいのか???

俺が今にも受付嬢を殴りかかりそうなその時、奥からジルさんが出てきた。


「そろそろ約束の時間なんだけど、リエル君はいるかな? って、今着いたようだね。」


ジルさんは俺がいることを知り、少しだけ嬉しそうな顔をした。


「じゃあ入ってくれ。」

「はい。分かりました。」


そう言われ、俺と受付嬢は奥の部屋に入っていった。

受付嬢の声が俺と話すときと全然違うことについてはあえて突っ込まないでおこう。


「さて、じゃあ計らせて貰うよ?」

「はい。」


俺は頷いた。

ん? まてよ? これってお金とかは大丈夫なのか?あとから請求されても困るぞ?

俺がそんなことを考えていると、ジルさんが察したような顔をして話した。


「ん? あぁ。お金なら大丈夫だよ。これにはお金がかかってないんだ。」

「へぇ。そうなんですか。」


そうか。ならよかった。

そして、俺が神妙な面持ちをすると、ジルさんはコクりと頷き、スクロールを持った。


「へぇ。」


ジルさんは興味深そうに笑った。

これはどっちととれば良いんだ!?

弱かったのか強かったのか分からないからとても怖い。

こんな究極の選択ないだろう。

強ければ幸せが勝ち取れ、弱ければ逮捕だ。

早く言ってくれ!! 頼む!!


「ん? あぁ、ごめんごめん。怖かったか。」


ジルさんは察してくれた。本当にジルさんは察してくれるな。俺はそんなところを少し尊敬し、結果を聞いた。


「結果は......。」


ドクンッドクンッ


心臓の音が大きく感じる。

人生のターニングポイントだ。

どうなるんだ!!


「合格だ!! 素晴らしい!!」

「よっしゃぁ!!」


俺は大喜びした。


「君の存在値はウルフを遥かに越えて、銀級のモンスターレベルまで高かった。あの噂は僕たちの誤解だったようだ。すまない。」

「いえいえ。良いんです。」


嬉しかった。

これから俺の人生が始まるようだった。

周りはお祝いムードだったが、一名だけわなわなと震えているものがいた。


「ちょっとまってください!!」


受付嬢だ。

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