第8話

さて、今日が最後の一日だ。

今日の夜10時までに存在値がウルフよりも強くなっていれば良いわけだ。

俺はまた精霊の巣へと出掛けることにした。


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何だろう。今日は朝行った筈なのになぜか精霊の巣に向かう途中全然モンスターが出てこない。

狩りが多く行われていてもここまでは無いだろう。

本当に不思議だ。何かあったのだろうか......。

ま、そんなことは考えてないで、まずは狩りだ!!俺にはもうほとんど時間がないのだ。

がんがん強くなっていかなければ駄目だ。


俺は魔物をさがしだした。

すると、いつもよりもすぐに見つかった。


「グルルルル。」


何やら興奮している様子だった。何もいないところに唸ってみたり、しまいにはちょっと暴れたりしている。

これはめんどくさい。

いつもならもう少し静かで、人間メテオの良い的なのだが、動いていると成功率がガクンと下がる。

だが、獲物をみすみす逃す俺じゃない。


俺は素早くウルフに近付いた。

音などは気にせずだ。

そして、振り向きそうになった瞬間俺は人間メテオを使った。

興奮状態なら、気付いていなくても振り向く可能性があるので、構わずそうやった。

そして、そのままウルフを潰した。


「ふぅ。」


精神を使ったな。

いつもと違うことをするのはやはり疲れる。

しかし、なぜあのウルフはあんなに興奮していたんだ?

いままでこんなことは一度も起こったことがなかった。大抵の場合は、静かに毛繕いをしていたり、のんびり歩いていたりする。

あんなに興奮したことは一度もなかった。


「まっ、いいか!!」


考えすぎてしまう頭をリセットするために、わざと大きな声を出した。

本当に時間がないのだ。こんなことに時間を掛けている余裕はない。

さぁ、狩りを続けよう!!


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俺は地面に座り込んだ。


「はぁ、はぁ。」


まだ息が荒い。ちょっとがんばりすぎてしまったようだ。

俺は今日、ウルフを12匹、ゴブリンを24匹倒した。

これはものすごい数だ。

なぜ、このような数を倒せたかと言うと、理由は二つほどある。

一つ目は、俺が全速力で狩りを行ったからだ。

ほとんどずっと走りっぱなしだったほどだ。

休みなんてほとんど取っていない。

それが理由の一つだ。しかし、それはそこまで関係していない。それのお陰で数が増えたのは確かだが、それでも何匹かだ。

一番の理由は、二つ目の理由にある。

その理由とは、何故かいつもよりも魔物が多かったのだ。

それに、何故かは分からないが、ウルフもゴブリンも興奮していた。

一番最初に戦ったウルフ位のが沢山いて、正直ちょっと怖かった。

しかし、それのお陰でレベルが3上がった。

これで、存在値が上がっただろう。

ウルフと戦っても多分圧勝出来るだろう。

俺は早速ギルドへ行くことにした。



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俺はギルドに行く途中に奇妙なものを見つけた。

ミステリーサークルのようなものが森のなかに出来ていたのだ。

俺はちょっとした好奇心からそこを調べてみることにした。

ふむふむ。

ここは木などをなぎ倒して作られた場所のようだ。

周りには白い毛が散らばっている。

これは......ウルフの毛か?

だが......ウルフよりも白い気がする。

ウルフのようなもので白い毛を持つもの......。


はっ!!


俺は最悪な思い付きをしてしまった。

そして、その思い付きは最悪なときに現実となってしまうのであった。


グルルルル


大きなうなり声が聞こえる。

普通のウルフとは違うもっと威厳のあるうなり声だ。

そして、その声の主が俺の前に姿を表す。


白狼ホワイトウルフ......。」


白狼......銀級最上位のモンスターだ。

俺がいつも倒していた草原のウルフが銅級の上位で、精霊の巣のウルフが銅級の最上位だと言えばその強さが分かるだろうか。

なるほど。魔物が興奮していた理由が分かった。

白狼がいたからだ。

魔物やモンスターは何故か強者へのセンサーが敏感だ。

魔物やモンスターが急にいなくなったりしたら強い魔物やモンスターか現れる予兆だと言われるほどだ。

ウルフなどのモンスターが草原に全然現れなかったのもそれのせいだろう。

はぁ、なんで俺はこんなにも不運なんだ......。白狼は完全に俺のことを獲物を見る目で見ていた。


俺はそれを見つめ返す。

威嚇のようなものだ。白狼はこちらを見たまま、警戒して動いていない。

これは賭けになるのだが、一つだけ作戦がある。

俺がこいつに勝てるとは思えない。

なので、逃げることにしようと思う。

俺は気付かれないように魔法を構築し出した。

ウルフと戦ったときに使った風魔法だ。

強い風を引き起こすことによって、出来るだけ早く逃げられるだろう。

白狼は少しでも俺が動いたらすぐに俺を襲ってくるだろう。だから、俺は気付かれないくらいの微弱な魔力で少しずつ魔法を構築していく。


ほどよい緊張感だ。

集中力が高まっていく。

雑念が消えていく。


数分たち、魔法が出来上がる頃には最高の出来の魔法が出来上がった。




ドクゥン




なんだ?




ドクゥン




「うっ!!」


頭が痛い。記憶が無理やり頭から出ていく感覚だ。

忘れたかった記憶。もう乗り越えたと思っていた記憶。

そう。



サエル!!

何故お前はあんなことをしたんだ!!

お前と過ごしたあの日々は全部演技だったのか!?


その事が頭の中に反響する。


『そうさ。俺はお前のことなんて最初から親友なんて思っていなかった』


嘘だ!! 黙れ!! お前はサエルじゃない!!


『あははははっ!!』


サエルがあの人を少し見下したかのような笑い声をあげる。

昔はその笑い声さえも楽しかった。

今じゃただの嫌な音だ。


忘れたい。


こんなのただの悪い夢だと思いたい。


「ぐはっっ!!」


痛い!!

俺はそれで頭の中の世界から現世に戻される。

痛みの先を見ると白狼がいた。

突進されたようだった。


そうか。俺はここで死ぬんだ。


最悪だ。


全て忘れたい。


死んだと言うことも忘れたい。


俺の思い出が崩れていく。

大切な思い出。

親友との大切な......。











































ほら、僕たちってもう家族みたいなものなんだから





暗い、暗い忘却の世界の中。

一つの光が見える。



「メイラ......。」


俺は彼女の名を呼んだ。

忘れない。

忘れてはいけない名前。


俺の大切な大切な。


親友おもいびとの名前だ。




世界が光に包まれる。


すべての記憶がメイラに上書きされるような感覚だ。

そうか、メイラはもう俺の全てなんだな。

彼女の幸せは俺の幸せだ。

いま俺が死んでしまったらメイラはどう思うだろうか。

彼女は俺のことを家族のようなものと言っていた。


俺も家族のことは好きだった。


死んでしまうととても悲しいくらいには。

彼女もそうなのだろうか。





まぁいい。

俺が生き残らなければならない理由としては十分だ!!



「ぐるるぅ!?」


ウルフがとても驚いたような声を出した。

俺の体を見ると、俺は淡い桃色の炎に包まれていた。

そうか。これは思いの力なんだな。

鑑定などを使わなくても分かる。

さて。


「反撃開始だ!!」

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