第6話

「ふわぁぁ。」


うぅん。まだ眠たい。

昨夜は、メイラが抱きついてこなかったのと、一昨日抱きつかれたお陰で、耐性が出来たのでぐっすりと眠れた。

しかし、昨日は色々とあり、疲れているのか、まだ寝足りない。

もう一眠りするか。

おれはそう考えかけたが、やるべきことを思い出して、渋々目を覚ますことにした。

あと三日間しかないんだ。急がなくては。


「メイラ。起きろ。」


俺は今日もメイラを起こした。


「くー。」


ぐっすりと寝てるな。全然起きる気配がない。

起こさかったら何も出来ない。ご飯も作れないし、補充しようとしていた回復薬も買えない。


「はぁ、仕方がない。」


俺はメイラの脇に手を入れた。

そして......。


「よいしょっ。」


メイラを持ち上げた。


「うっ、うわぁ!! なっ、なに!?」

「もう朝だぞ。起きろ。」

「え? ......えぇ!?」


メイラは寝惚けてるのか全然状況を把握できていない。


「朝ごはんは何が食べたい?」

「えぇ!? 肉!! けど、?あれ?」


ちゃっかりと自分の食べたいものだけはしっかりと言ってくるな。

それにしても肉が......。

朝から焼き肉は少し思いしな......。


そこで俺は思い付いた。


そうだ。材料も揃っているしサンドイッチを作ろう。

昨日残ったレタスと肉。キッチンにあった卵とパン。これを使えば十分美味しいサンドイッチが作れるだろう。

早速取りかかろう。その前にまずは。


「メイラ。今日の朝ごはんはサンドイッチだ。出来るまで待っていてくれ。」

「うっ、うん。」


少しは落ち着いてきたようだな。頭の上に浮かんでいたクエスチョンマークが消えた。

さて、料理するか。

俺はキッチンへと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ドンッ


「おまちどおさま。今日の朝ごはんはサンドイッチだ。まぁまぁうまく出来たと思うから期待しててくれ。」

「ほわぁぁぁ。」


メイラは目を輝かせてサンドイッチを見ていた。


「「いただきます!!」」


モグモグ


「「んんー!!」」


これはうまい。

レタスが昨日の炒め物よりもさらにしゃきしゃきしていて食感にアクセントが出来、それを包み込むような肉の味が堪らない。

控えめに言って神だ。


「どうだ?おれの自信作は美味しいか?」

「控えめに言って神☆」


やっぱりな。

俺たちはサンドイッチを堪能した。


「あぁー。美味しかった。」


本当に実家で食べていたものがからだに良いのかと疑問に思うほど美味しかった。

少しだけ追放されて良かったと思った瞬間であった。


さて、じゃあ準備に取りかかろう。

まずは、回復薬を買いたい。

そろそろ下級の回復薬では回復量が追い付かなくなってきたのだ。だいたい、俺の人間メテオのダメージが50%だから、半分ほど回復できればそれで良いのだ。しかし、下級回復薬ではそこまでも回復が出来ないのだ。

これでは二三回飲まなくてはいけなくなり、ゴブリンなどと戦うときは不利になってしまうだろう。

命を落とす可能性をお金で買えるのならいくらでも使う。

命があればまだ出来ることがあるかもしれないからな。

まぁ、それを自殺をしようとしていた奴が言っても説得力がないがな。

これらを考えた上で、俺は中下級の回復薬を買う予定だ。

しかし......。

俺は財布のなかを見た。

あと数千円しか残っていない。魔石を売りにいくにもあの受付嬢とに会ったらトラブルが起きること間違いなしだ。

どうしたものか......。

俺はその事をメイラに相談した。

すると、メイラはこう言った。


「あぁ、それなら私が魔石を買い取ってあげるわよ。」

「え?」

「魔石って、魔力回復薬の材料でしょ? 普通、ギルドから卸して貰わなければならないから、こうやってギルドを介さないで取引した方がお得なのよ。」

「へぇー。そうなのか。」


それは始めて知った。


「ゴブリンの魔石が5000円、ウルフの魔石が20000でどう?」

「そんなに良いのか!?」

「うん。これでもギルドから買うよりかは安いのよ。」

「ほへぇー。」


俺はちょっと間抜けな声を出してしまった。

しかし、気になることがひとつあった。


「けど、それってあまり良いことじゃないんじゃないのか?」

「あぁ、それは良いのよ。ほら、モンスターを狩って、その肉を家に持ち帰って家族で食べたりするじゃない? ほら、僕たちってもう家族みたいな物なんだからいいんだよ。」

「かっ、家族って......。」

「?」


俺はその言葉に過敏に反応して顔を赤くした。

一昨日のこともあり、かなり意識してしまっているのかもしれない。

俺が顔を赤くしていると、メイラは初めは良く分からないようなキョトンとした顔をしていたが、ふとしたところで気が付いたようで、顔が爆発したかのように赤くなった。


「ひゃぁぁぁぁ。」


メイラはそんな変な声を出してカウンターの中へと逃げていった。


「まっ、魔石は置いていくから、回復薬貰っておくからな。」

「うっ、うるさい!!早く持って出てって!!」

「へいへい。」


俺は35000円分の魔石をカウンターに置き、中下級回復薬を7個とって、そさくさと店を出ていった。


今俺はまた精霊の巣に来ている。

コンディションは最高だ。

新しい武器が手に入り、良い回復薬も手に入った。睡眠もしっかり取れたし、美味しい朝ごはんも食べられた。

体調はもう良すぎるくらいだ。

さて、今日も狩りをしよう。

存在値というのがどんなものなのか正確に分からない以上用心していかなければならない。

なんたって、失敗したら捕まるというのだ。俺の人生がかかっているといっても過言ではない。


よし!! 頑張るぞ!!


リエルはその努力が過剰だとも知らずに狩りを続けるのであった。




ーーーー


ーーーーーーー


ーーーーーーーーーー


ーーーーーーー


ーーーー




その頃、メイラは店で少し暇をしていた。

メイラの店、サインリーアはそこまで大きい店ではない。

が、品質と安定性が優れていて、殆どの回復薬がしっかりと効果を示す。

その分値段が高いのだが、命がかかっているので、このような店を使う人は多かった。

とわいえ、安く、大量に売っている大手のメーカーには勝てない。

なぜなら、メーカーと言えば安くて、品切もなくて、品質もなかなかよいといった評価になるからだ。

なので、今日もメイラはお客さんが来ないかなと思いながらカウンターにいた。


カランカラン


扉のベルが鳴る。

メイラはやっと待ちに待ったお客さんかと思い気分が上がった。

しかし、それも長くは続かなかった。


「いらっしゃいませ......ってお前は!!」

「よう。」


入ってきたのは......サエルだった。

メイラはサエルとリエルとメイラの三人で良く遊んでいた。

だからこそ信じていた部分もあったのに、裏切られたのだ。


「ふんっ。あんなことをやっておいて良くノコノコとやってこれたね。あなたのその精神に感心するよ。」

「おう、そうか?」

「ちっ。」


メイラは皮肉のつもりで言ったのだが、サエルは都合良く自分が誉められたとでも思っていたらしい。


「それに、あんなことってなんのことだ? 具体的に言ってくれないと分からないよ。」

「リエルのことよ!! 何で神の判断であんなことをしたの!? リエルは優れた魔法使いだったし、あそこでしっかりとできたら必ず言いスキルを貰えた筈なのに!!」

「はっ、なに言ってるんだ。あの無能は欲張りすぎて制御が出来なくなっただけなんだよ。それにあの無能のことだ。成功してても言いスキルは手に入らなかったさ。」

「あくまでも白を切るつもりなのね......。」


メイラはリエルのこれからの人生を壊したサエルのことを許さなかった。

そんなメイラの空気をわざと読まないように、サエルが話し出した。


「そう言えば、あの無能の話で思い出したんだが......お前......リエルから俺に乗り替えないか?」

「は?」

「言い方が悪かったか? あの無能なんかと付き合ってないで、俺と付き合おうぜって言ってるんだ。」


なんと、サエルが話し出したのはプロポーズだった。

これにはメイラも呆れてしまい、逆に冷静になった。

そして、考えた。どうやったらサエルを傷つけることが出来るのかを。


(そうね。思い付いた。)


メイラは少し悪い笑みを浮かべた。


「で、返事はどうだ?」

「ごめんなさい。拒否するわ。」

「なっなぜ!! まだリエルのことを引きずってるのか? あんなハズレスキルを手にいれてしまうやつのどこが魅力的なんだ!!」

「ふふっ、少なくとも友達を裏切った貴方よりも数億倍は魅力的よ。あっ、あなたの魅力はゼロだからかけられないか。」


メイラは出来るだけ煽るようにそう言った。

サエルは怒りがもう限界のようで、怒鳴ろうとした瞬間、メイラが被せるようにこう言った。


「それに私......もうリエルと一夜を過ごしてるのよ?」

「んなっ!!」


嘘ではない。言い方が少し誤解されそうなようにわざとしたのだ。

これでサエルは見事に騙されたのだ。


「まっ、まさか、そんな筈は......。」

「あのときは積極的だったなー。(私が)」

「積極的!?」

「後ろからだったね(私が抱きついたのが)」

「うっ、後ろ!? まさか。そんな破廉恥な!!」

「思わずけだものって言っちゃったわ。」

「そっ、そんなに......。」


サエルはもはや放心状態でいた。

数分後、サエルはハッとして顔を真っ赤にし、プンプンしながら店から出ていった。


「はぁー。清々した。」


これでちょっとは溜飲が下がったと言うものだ。

しかし......。


(なんであんなに恥ずかしいこと言ったんだろう......。うう。恥ずかしいよぅ。)


メイラは顔を真っ赤にし、カウンターの中に隠れた。


(けど......いつかはできたら良いな。)


そう思うメイラの顔は恋する乙女の顔であった。

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