第2話 お昼の時間

 今、季節は冬。十一月である。高校2年生の僕らには、一大イベントが待ち受けていた。そう、修学旅行だ。僕は…いや、僕と雫は完璧にこの行事を忘れていたのだ。なぜかというと、僕と雫の二人とも、ボッチを極めていたので、楽しみなんかじゃなかったからだ。心底どうでも良い、だからこそ、普通は楽しみにするはずの修学旅行を忘れていた。


 そして、僕と雫は互いに関心がなさすぎて、屋上で出会う前まで同じクラスだと言うことに気が付かなかったのだ。クラスメイトの顔くらい覚えろよと言う人もいるかもしれないが、本当にクラスに馴染めていない人にはわかるだろう。クラスメイトの顔なんて半分も覚えていないと。


 話がずれたが、今僕は修学旅行が少し楽しみになった。雫の存在だ。男女なので同じ部屋班にはなれないが…いや、なれたとしてもなるつもりはないが、友達ができたのだ。そりゃ必然的に楽しみになってしまうだろう。


 朝のホームルームが始まり、先生が今日の午後は修学旅行のバスと新幹線の席、行動班に部屋班を決めると言っていた。部屋班はあまりものになるのだろうが、行動班は雫と同じになりたいと、心の底から願うのだった。




 それから午前の授業は当たり前のように寝過ごし、時は昼休憩。僕は屋上に飯を食いにきていた。隣には当たり前のように雫がいた。まるで恋人である。


「修学旅行…かぁ。」


 ぼーっと青すぎる空を見上げながら、呆然と呟く。僕には修学旅行の思い出というものがない。中学の時、旅行を眼前にして、両親は消えたからだ。修学旅行がどのような感じなのかや、楽しいのかなど、僕にとっては想像がつかないのだ。少しだけ貯金をしていたことで、一回旅行に行けるくらいのお金は貯まっていた。だから、僕は行こうと思う。


「私、楽しみなんだよね今回の旅行。」


 隣にいた雫が突如としてそんなことを言う。まぁ、楽しみだと言う気持ちには少なからず同感なわけなのだが。


「僕もだよ。言ってて悲しくなってくるが、僕友達いなかったから、雫と話すようになってから楽しみになったんだよね。」


「私もおんなじ理由だよ!」


 僕たちは、考えてることのみならず、境遇も似ていたのだ。流石に両親が他界したとかそう言った境遇とは違うが、一人ぼっちを極めていたと言う境遇は、本当に同じだったのだ。


 そんなことを考えながらも、僕は昨日買ってあったコンビニ弁当を取り出す。すると、突然弁当が奪われた。


「おい、何すんだ。」

 

 雫はニヤニヤとしながら僕の方を見る。なんだその顔何企んでんだ。


「いや、どうせ今日も誠君はコンビニ弁当なんだろうなって思って。」


 そう言いながら、雫は弁当を入れるケースのような場所から、ある一つの弁当を取り出し、僕に手渡してきた。


「………なにこれ。」


「お弁当、作ってきたから食べて?」


 マジかよ…と、心の中で呟く。コンビニ弁当をいじられることはたまにあったが、まさか作ってくれるようになるとは思わなかった。


「良いのか?僕なんかが食べても。」


 するとえっへんとしたドヤ顔で雫は言った。


「もちろん!」


 そうして僕はそのお弁当を開く。てっきりここではアニメや漫画のようなダークマターが入っているのかと思ったが、そんなことはなかった。蓋を開けると、そこにはたくさんの種類のおかずとご飯が並べてあった。彩も気にしているのか、見栄えもかなり素晴らしいものだった。元々お腹が空いていた僕は、その弁当を見ることにより、さらに食欲を刺激される。


「い、いただきます。」


 飯前の決まり言葉を言い、僕は隅っこにあるウインナーをそっと箸で摘み、口の中に入れる。その食感は、噛めば噛むほど肉汁が出てきて、ジューシーと言う言葉が1番合うレベルの美味さだった。袋から取り出して茹でたり焼いたりするだけのウインナーがなぜここまで美味しくなるのか、僕には想像すらつかない。


「う、美味い…」


 思わずそう呟く。普通の人なら間違いなく呟いてしまうだろう。そんなレベルの美味さだった。


「ありがと!」


 輝かしくなるほどの笑みを浮かべながらお礼の返答をする雫を、今この瞬間心の底から尊敬するのであった。


 それからも僕はおいしすぎる弁当を食べ続け、お腹が膨れた頃に取り上げられたコンビニ弁当を渡され、買ったのなら食べろと言われて地獄を見たのは言うまでもない。


 何度も言うが、こんなことをしているが、僕たちは恋人じゃない。

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